試走で衝突、インドネシア「国産LRT」が抱える問題 政府要求「無理な工期」と安全意識欠如が重なる

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インフラについては日本の大手建設コンサルタント、オリエンタルコンサルタンツグローバルが施工管理を行っている。ただ、ジャカルタMRTで実施されたような、人材育成を目的としたソフト面に対するコンサルティングは行われていない。実は着工の際に日本の鉄道コンサルにも声がかかっていたが、プロジェクトに不確定要素が多すぎることに加え、日本側はMRTに割く人材で手いっぱいだったことから参画が見送られた経緯がある。

現在、国営LRTは車両の走行試験(受け取り試験)をINKAの手で実施しており、KAIはまだ車両の引き取り前のため、運転はINKAの作業員が行っている。試験は信号、保安装置も使用しない完全なマニュアル運転で、今回の事故はその最中に起きた。信号なしで運転するため、1駅間を走行可能なのは1編成だけである。

本来なら追突などありえないはずだが、なぜ事故が起きたのか。

車両基地の工事遅れが大きな要因

これは工事の遅れ、とくに車両基地の建設が土地収用の問題で大幅に遅れていることが密接に関わっている。基地は2020年にようやく着工したものの、現時点での進捗率は5割程度で車両の留置は不可能だ。また、基地は運行管理センター(OCC)を併設しているため、完成しないことには営業運転同様のオペレーションは不可能で、ブカシ線には車両の入線すらできていない。

このため、走行試験はチブブール線(主にタマンミニ―ハルジャムクティ間)で実施しており、事故当時31本あった車両も全て同区間の本線上に留め置かれていた。この留置車両に試運転車両が追突したのである。正確には、試運転を終えた編成(第29編成)を留置位置に戻す際に、前方に留置中の編成(第20編成)に追突した。車両はどちらも大破しており、INKAの発表によると第20編成の前方に留め置かれていた2編成も損傷を受けているという。

ハルジャムクティ駅の車両搬入・搬出用クレーン付近。事故車と思われる車両がブルーシートに覆われ、トレーラーに載せられていた(撮影:Kaito Ishikawa)

車両入れ換え時の最高速度は時速5kmに定められているが、追突車両は留置車両に乗り上げるような形で破損しており、明らかに速度オーバーしていたことがうかがえる。INKAは事故発生日の夕方にはオンライン上で会見を開き、ヒューマンエラーであると断定したうえで、車両システムのトラブルではないことを強調した。事故現場は直線区間で、なぜ減速できなかったのか作業員の証言が待たれるところだが、11月中旬時点で公表されていない。

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