試走で衝突、インドネシア「国産LRT」が抱える問題 政府要求「無理な工期」と安全意識欠如が重なる

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現在、インドネシアに残る日本の大型鉄道案件としては「ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)東西線」と「ジャワ島北幹線鉄道高速化事業」があるが、いずれも事前準備調査の段階で止まっており、その後の進捗は見られない。日本の開発援助が要請主義を取っている以上、インドネシア側からのアクションなしにプロジェクトは動かないが、明らかにインドネシアのインフラ開発がトーンダウンしている印象は否めない。

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ただ、インドネシア側に揺るぎないものもある。それは国産化率の向上である。政権が変わろうとも、この方針だけは変わることはない。鉄道案件で言えば、アディカルヤを始めとした国営建設会社、そして、INKA、LENといった鉄道関連会社での現地生産化を約束しなければ、円借款供与とはいえインドネシア政府を動かすのは難しい情勢である。

日本が関わる案件としてはもう1つ、2014年に「ジャカルタ首都圏鉄道輸送能力増強事業(I)」として163億円が供与されている。車両基地の拡張、新型車両の調達などが含まれる事業だが、予算執行がほとんどされていない。インドネシア側が自国予算と自国企業で実施するとしたためで、事実上この事業は宙に浮いている。

日本流の「安全意識」広げる契機に

実は、まもなく執行期限を迎えてしまうこの予算を用いて、ジャカルタ首都圏のKAI路線に保安装置(日本式のATS)を導入する計画が水面下で進んでいる。2015年に起きた元JR205系同士の衝突事故を契機として導入の機運が高まった。

ただ、インドネシア側の動きは鈍い。また、ジャカルタ首都圏の日本製車両のみならず、地方から乗り入れる長距離列車用のジャワ島すべての機関車に設置するとなれば、とうていこの予算には収まらない。しかし、乗務員の目視による確認のみに頼り、3分間隔で運行している現在の状況は、いつ事故が起きてもおかしくない。

2019年10月にハルジャムクティ駅から本線に搬入された第1編成(筆者撮影)

今回の国営LRTでの事故は、試運転中で死者が出なかったのが不幸中の幸いではあったものの、鉄道国産化を推し進めるインドネシア政府の威信に傷が付いたことは間違いない。保安装置すら作動させられないイレギュラーな運用をせざるをえなかった状況ではあるが、それがいかに危険であるかが改めて認識されたはずである。

これを機に、保安装置の議論が深度化していくのを期待するのと同時に、乗務員、作業員への安全意識教育が州営MRTのみならず、全土的に広まっていくことを望みたい。我が国も、「日本の鉄道は安全」という常套句を並べるだけではなく、過去の事故の積み重ねの上に今があると言うことを、伝えていかなければならないだろう。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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