試走で衝突、インドネシア「国産LRT」が抱える問題 政府要求「無理な工期」と安全意識欠如が重なる

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2013年11月に円借款と日本の技術によるジャカルタ州営MRT(地下鉄)が着工、さらに2015年には韓国の技術による州営LRTの建設が決定した。これを受け、政府はかつてのモノレール計画をLRTに変更し、国家戦略プロジェクトに指定。州営MRTやLRTに「追いつけ追い越せ」とばかりに、2018年末~2019年初頭の開業を目指して2015年9月に着工した。

折しも、2015年9月には日本と中国が受注を競ったジャカルタ―バンドン間の高速鉄道建設が中国案で決定。予算の圧縮と土地収用期間の短縮のため、ジャカルタ側の始発駅が都心のドゥクアタスから東ジャカルタのハリムへと変更された。都心からハリムへの交通の便は非常に悪く、軌道系アクセス手段の建設は必須だった。当初案の段階からハリムを経由する国営LRTの建設は高速鉄道に必要不可欠であり、事実上の「抱き合わせ案件」とも言えた。

いずれにせよ、着工当時は具体的な工期や仕様も不明瞭な部分が多く、日本の業界関係者にとっても寝耳に水の話であったと聞く。

開業延期続き膨らむ予算

突如ともいえる着工が可能になった背景には、州営MRT、LRTに遅れを取りたくないという中央政府のプライドや、高速鉄道開業に間に合わせなければならないという焦りもあるものの、民間プロジェクトとして進められていたことも大きい。

工事中のチャワンチココ駅。2020年11月の様子(筆者撮影)

インドネシアの国営企業は国を筆頭株主とした株式会社化(民営化)を完了しており、その中の複数の国営銀行(Mandiri、BNI、BRI)および国内外の民間銀行が、LRTの運営主体となるKAIに18年ローンで資金を貸し付けている。インドネシア政府が近年インフラ整備に積極的に採用しているPPP(官民連携)プロジェクトだ。

だが、融資契約が締結されたのは着工から2年後の2017年だった。その時点までプロジェクトの筆頭企業がオペレーターのKAIなのか、インフラ側の国営建設アディカルヤになるのか定かではなかったためだ。また、そもそも工期に無理があるため開業はたびたび延期されており、予算は当初予定の約23兆ルピアから膨れ上がっている。銀行から再融資を受けたほか、2021年11月には政府からKAIに高速鉄道と合わせて6.9兆ルピア(うちLRT向けは2.6兆ルピア)の国家予算が投じられる事態にもなった。

国営LRTは「オールインドネシア」を標榜するが、全体設計はフランス国鉄が出資する世界的に有力な鉄道コンサルタント、シストラが請け負い、車両・運行システム一式は入札基準から欧州仕様で固められている。そのため、インドネシアで組み立てはしているものの、車両の主要部品はスペインのCAF、自動運転・信号・通信関連機器はドイツのシーメンスと、欧州製品で占められている。

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