試走で衝突、インドネシア「国産LRT」が抱える問題 政府要求「無理な工期」と安全意識欠如が重なる

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国営LRTはオペレーターがKAIであるため開業に向けた鉄道マンはそろっており、一から人材を育成する必要がないのがアドバンテージでもあった。しかし、試運転中の事故は盲点だったといえるだろう。INKA作業員は工場内で試運転の経験はあれど、本線上でハンドルを握ったことはない。

国営LRTの車内(筆者撮影)
チラチャス駅前後の本線上にずらりと並べて留置してある車両。上下線合わせて少なくとも8編成ほどが確認できる(写真:Kaito Ishikawa)

筆者は事故発生の1カ月ほど前に、事故発生区間の試運転に便乗したことがある。当時、試運転は時速10km以下で実施とのことだった。ただ、スタッフから漏れ聞こえてくる会話から察するに、来賓がいないときはもっと速く走っていることがうかがえた。これこそが事故の芽であったといえるが、1区間に1編成しかなければ、信号がなくても追突することはない。

しかし、車両基地の建設遅れという問題を抱えつつ開業時期が迫る中、打開策として本線上に車両を留置したままで走行試験を開始してしまった。そこに安全意識と規定順守の欠如が加わった。つまり、起こるべくして起きた事故と言っても過言ではないだろう。

事故後、政府に批判的立場をとる一部メディアは、高速鉄道への国費投入とともに国営LRT問題を多く取り上げている。ただ、出てくるのは車両の一部資材や設計が運輸省の規定する仕様と異なっていたという調査結果や納期の遅延など、INKAに関するスキャンダル的な話ばかりである。政府も事故後、全体的な説明責任をまったく果たしておらず、すべてINKAに押し付けている格好である。

「4年スパン」が問題の根源

しかし、政府が求めるわずか4年という短すぎる納期こそが、今回の事故を含め、国営LRTに関わる諸問題の根源である。

民主化後、インドネシアの物事は大統領の任期である4年スパンで決まると言われて久しいが、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領が2014年に就任して以来、その傾向は顕著になっている。長期ビジョンが描けないのである。

大統領は1期目の任期中、次期選挙対策として、根拠のない「2019年までに完成」という大型インフラプロジェクトを続々と打ち上げた。高速鉄道も国営LRTもその一つである。大統領令を出されている以上、現場は無理を承知で進めなければならない。その結果費用は膨らみ、そして事故という最悪の事態に至った。

現在2期目のジョコウィ政権は2024年に任期満了を迎え、再選はない。確かにこの7年間でインフラは大きく発展した。ただ、この反動はいずれ必ず来るだろう。国費投入からわかるように、PPP万能論にもほころびが見え始めている。次期大統領次第では、強力に推し進められていたインフラ整備も転換期を迎えるかもしれない。

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