終(つい)の住処(すみか)は個室か相部屋か、低所得者対策で論争激化
このようにユニット型個室の長所は少なくない。にもかかわらず、なぜ自治体は多床室の新設を進めようとしているのか。自治体が理由として挙げるのが、低所得者が個室を利用するうえでの経済的負担だ。
東京都高齢社会対策部の狩野信夫部長は「個室が望ましいのは確かだが、現に生活保護受給者が入居できない。一般の低所得者も利用率が低い。この現状を放置できない」と語る。東京都は今年度から始まった緊急対策で、3割まで多床室を認める併設型施設の建設を3年間に限って認める方針を打ち出した。千葉県や高知県は09年度から多床室を併設した特養ホームの新設を認める方針に転換した。川崎市では今年6月に併設型施設がオープンした。
横浜市は個室政策を堅持
生活保護受給者がユニット型個室に原則として入居できないのは、生活保護行政を担当する厚労省社会・援護局の方針による。同局は、特養ホームに占めるユニット型個室の割合が2割程度と低いことを理由に、最低限度の生活に必要だと見なす段階にはないとの認識を示している。
また、ユニット型個室の場合、多床室と異なり、居住費の自己負担が求められていることから、例外的な場合を除いて利用を認めていない。
一般の低所得者(住民税非課税世帯で年収80万~266万円)では、多床室と比べて、ユニット型個室の自己負担額が倍以上の金額に設定されていることもあり、多床室の希望者が多い傾向があるといわれる。
こうしたことから、多くの自治体は多床室のニーズが多いと判断。個室を原則とする政策に批判的だ。厚労省は多床室の新設自体を禁止していないものの、併設型施設の場合、ユニット型個室部分に関する介護報酬について、より低額である従来型個室の報酬を当てはめる考えを明らかにしている。