「脳に直接電流を流した」彼に起こった衝撃の結果 米国で巨額投資進む「ブレインテック」の現在地

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脳科学とテクノロジーを融合した「ブレインテック」の動きが活発だ(写真:Graphs/PIXTA)

個人差こそあれ、一般には加齢とともに衰えるとされる私たちの記憶力。これをITのような技術の力で補強することは可能だろうか?

アメリカ国防総省の「マッドサイエンス部門」とも呼ばれるDARPA(国防高等研究計画局)は今から数年前、人間の脳に電気刺激を与えて記憶力を強引に高める臨床試験を実施した。

その被験者となったのは、あらかじめてんかんを治療するために手術で脳内に複数の電極を埋め込まれた男性患者。これらの電極に外部から微弱な電流を流して脳を刺激すると、てんかんによるけいれんなどの症状を抑えることができる。

このような治療法は「脳深部刺激療法(DBS)」と呼ばれ、てんかん以外にもパーキンソン病など不随意運動を伴う病気に向けて、すでに世界で16万人以上の患者に適用されている。

電極を「記憶力の強化」に転用

DARPAでは、この男性患者の承諾を得て、本来ならてんかん治療に使われるべき脳内の電極をあえて「記憶力の強化」に転用する実験を行った。

この臨床試験では、まず患者に「スーツ」「かたつむり」「ジュース」「飛行機」など、互いにまったく無関係の12個の英単語をパソコン画面上で見せてから消した。その後、それらの中で記憶している単語を発音してもらったところ、最初は3個しか思い出せなかった。

ところが、この患者の脳に電極を通じて電気刺激を与えたところ、12個の単語をすべて思い出して発音することができた。

この患者は「(脳に電気刺激を受けた後は)頭の中に鮮明な絵が描かれたように(すべての単語を)見ることができた」とする驚くべき体験談を語っている。

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