京王線刺傷「常識通用しない」緊急時対応の難しさ

非常時「扉を開けない」のが鉄道の原則だった

鉄道事業者が常識としてきたこととは何か。国交省と京王電鉄が事件の概要を説明する中で、その一端が見えた。

「今までは原則は降ろさない、ということだったのです。線路上に降りてしまう可能性があると危ない」(木村課長)

斉藤鉄夫国交相は列車が緊急停止後に扉を開けなかった理由について、会議に先立つ同日の閣議後記者会見で言及している。

記者会見する斉藤鉄夫国交相(筆者撮影)

「正確な調査をしているところだが、特急は本来通過予定なので、いったん手前に止まって、所定の位置までゆっくりと動き出して止めるというやり方だそう。(事件では)止まるべき位置でないところで非常用ドアコックが操作されていたことから、車両の機能上、列車を動かすことができなかった。また、車両ドアとホームドアの位置がずれていたことから、当初は転落のリスクなどを考慮して開扉操作は行わなかったという報告を受けている」

車掌の判断は、この原則に沿ったものだった。緊急停止した国領駅にはホームドアがあるが、京王電鉄はホームドアと車両ドアのずれが前後50cmの範囲にとどまっている場合に車両の扉を開くことになっている。0082列車が止まった位置は、停止位置目標の手前2mと遠かった。

事態の把握は困難だった

しかし、乗客が切りつけられようとしている切迫した事態を前に、避難の際の安全性を優先すべきなのか、というわだかまりが利用者には残る。この点も会議で議論になった。運転士や車掌は、事件発生時にどんな問題に直面していたのか。

乗務員が異常を察知したのは調布駅出発から2分後の19時56分。車内に設置している非常通報装置が鳴ったことだった。車掌はすぐに応答したが、乗客からの反応はない。その1分後の19時57分、さらに多数の車両の通報装置が鳴動するが、やはり乗客からの反応はなかった。

同時刻に運転士側と車掌側に乗客が殺到し、この時点で切迫した事態が起きていることを乗務員は認識したが、何が起きているかを正確に把握できたわけではなかった。起きている事態がわからないときには何をすべきか。乗務員が対応すべき方向性はこれまで示されていなかった。

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