京王線刺傷「常識通用しない」緊急時対応の難しさ

非常時「扉を開けない」のが鉄道の原則だった

現状、ほとんどの列車は車内カメラを備えていない。車内の防犯カメラといわれるものは事件の検証のために設置されているものが多く、列車内をリアルタイムに把握できるカメラの設置は一部に限られている。

国交省が11月2日に開いた緊急会議(筆者撮影)

「これだけの事件に直面しているのになぜ」というのは、発生後だから言えることで、状況を把握できなかった事件当時の乗務員の判断は、これまでの緊急対応の方向性から保守的にならざるをえなかった。そこで11月2日の会議では、次のような指針が示された。

「危険が差し迫っている場合には乗客との通話は困難であるとの想定の下で、複数の非常通報装置が押された場合など、通話ができない状況でも緊急事態と認識する」

想定が通用しないことを前提に

鉄道事業者は扉を開けることを躊躇する。避難した乗客がほかの列車にはねられるなどの二次被害が想定されるからだ。安全のためには周囲の列車を止めなければならず、それができるのは運行を制御する運輸指令所と、列車を停止させる防護無線の発報だけだ。しかし、正確な状況把握ができない現状ではこの判断も難しく、切迫した事態には間に合わない。また、最寄り駅で停車できない場合の判断は、さらに難しくなる。

そこで会議では、前述の緊急事態の認識を前提として次のことが合意された。

「防護無線の発報により他の列車の停止措置を行ったうえで、(事件が起きている)当該列車についても速やかに停車させるなど、緊急対応することを基本とする」

また、事件は車内のドアコックを操作すると列車が停止する仕組みについても課題を突きつけた。結果的には、一刻も早い避難を求める乗客のドアコックの操作が、列車をホームドアの位置に停車させるための微調整を妨げることになったが、乗客の安全を考えた安全設計とはどうあるべきか、今回のような理不尽な事件を受けた検証が必要だ。

「常識や想定がもはや通用しない」事件の連続を受けて、緊急時には「扉を開けて乗客を逃がす」ことで方向性が一致したが、これは対策の第一歩にすぎない。

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