米軍震撼させた「中国の極超音速ミサイル」の性能 その衝撃はスプートニク・ショックに匹敵
伝えられるところによると、2度の実験のうち少なくとも一方は標的から大きく外れたため完全な成功とはいえなかった。が、こうした兵器開発によって、中国がいずれ核弾頭を搭載した極超音速滑空体を低軌道に投入し、思いどおりの場所から標的めがけて発射させられるようになる可能性が浮上した。アメリカの守りが手薄な南極圏経由の攻撃も想定される。
アメリカ本土に現在配備されているミサイル迎撃システムは、すべて太平洋側の西と北に向けられており、南からの攻撃には対応できないおそれがある。仮に南方面からの攻撃を想定したミサイル防衛基地が存在したとしても、現在の迎撃システムは大気圏外で予測可能な放物線の軌道を描く大陸間弾道ミサイル用に設計されているため、大気圏内でジグザグに進路を変える極超音速兵器を迎撃するのはまず無理だ。
スプートニク・ショックに近いというミリー氏の発言には、冷戦時代の記憶を呼び起こさせる意図がある。1957年、ソビエト連邦による人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ成功は、アメリカ政府に「宇宙開発競争でソビエトに後れを取った」という恐怖心を抱かせ、宇宙開発だけでなく、核軍拡競争にも拍車をかけるきっかけとなった。
核軍拡競争はソ連が崩壊してからの30年間は落ち着きをみせるようになっていたが、ここに来て、形を変えた新たな軍拡競争がよみがえるおそれが浮上している。
アメリカ軍の「沈黙」が意味すること
ロシアや北朝鮮と同じく極超音速兵器の開発を独自に進めるアメリカは、10月中旬に起きたブースターの不具合など技術的な問題に直面している。ただ、中国とアメリカの双方はそれぞれの技術課題を克服するリソースを有しているため、軍備制限の専門家の多くはそうした状況が新たな兵器開発競争につながる展開を危惧している。折しもジョー・バイデン大統領は、アメリカの核戦力の近代化に数兆ドルを投じるという提案を回避する策を練っているところだ。
アメリカ国防総省が沈黙を貫いていたのは、今回のミサイル実験の衝撃があまりにも大きかったからかもしれない。フィナンシャル・タイムズによる第一報の後も、国防総省のジョン・カービー報道官は実験の有無について明言を避けていた。