シャープ「アクオス・クリスタル」の乾坤一擲 「フレームレス構造」でアメリカ市場を攻める
アクオス・クリスタルのフレームレス構造液晶は、フレームが細い液晶パネルだけで出来上がっているわけではない。採用しているものは、シャープが回路設計などで工夫を加え、「EDGESTに比べ60%まで細くなった」ものを使っているが、それだけでは「フレームレス」にはならない。バックライトやタッチパネルモジュールも専用設計にし、フレームの細さを欠点としないような工夫をしなければならないからだ。
そしてもう一つの秘密が、ディスプレイの表面につけられたアクリルカバーだ。このカバーはエッジがカットされていて、レンズのような構造になっている。エッジ部分で液晶パネルからの光が広がり、フレームの一部を隠すような形になるため、本来液晶パネルが持つフレームよりもさらに細く見えるようになっている。ある意味「コロンブスの卵」的な発想だ。
それを作るのも簡単ではない。適切な効果を得られるよう、アクリルカバーは大量の試作品が作られ、最適なものが選ばれた。その見栄えは、CADやシミュレーションだけで把握できる範囲を超えていたため、実際に作った上で「技術者とデザイナーが確認しながら進める必要があった」(デザインを担当した、通信デザインセンターの小山啓一所長)という。一般的に、スマートフォンの液晶はガラスによってカバーされる。硬度ではそちらの方が有利だが、ガラスではレンズ構造を実現する「サイドのカット」が難しい。そこで、アクリルを素材としつつも硬度を高める加工を加えることで問題を解決した。このあたりは技術とノウハウの塊であり、「他社がすぐに追従できないと信じている」(前田氏)という。
フレームレスは他社にはない独特のもの
とはいえ、フレームレス液晶も万能ではない。厚みの点では既存の液晶より不利であり、「薄型化が差別化要因だった時には、なかなか採用に至れなかった」(小山所長)という。今回より薄型化に成功したが、それでもまだ少々厚い。また、アクオス・クリスタルは、日本のスマートフォンで標準装備となりつつある「防水」に対応していない。フレームレス液晶に防水のための止水機構を加えると、フレームの細さがスポイルされてしまうためだ。「現状では制約条件であり、今後の解決を模索している」と前田氏は言う。
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