シャープ「アクオス・クリスタル」の乾坤一擲 「フレームレス構造」でアメリカ市場を攻める

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「狭額縁」よりもさらに額縁感のない「フレームレス」は、現状シャープならではのものだ。ソフトバンクグループのシナジーによる日本・米国同時展開は、シャープにとって久々に大きな案件である。販売量が見込めることについて、シャープ側はもちろん喜んだ。だが、開発チームがまず考えたのは、少し違うことだった。

「これで、フレームレスという特徴を、もっと多くの人に感じてもらえる」。パネルの特徴が評価されることを、なによりも喜んだのだ。

製品は完全に「フレームレス」一点突破になった。デザイン担当のプーレン・フィリップ氏は「画面のカットが目立つので、それをいかにシンプルかつエレガントに見せるかに特化しました。背面のテクスチャーの精度にこだわったのもそのためです。また、通常SIMカードのスロットは側面に用意するのですが、この機種では裏蓋の中にしました。サイドにスロットの切り欠きがあるのはエレガントではないためです」とコンセプトを説明する。ソフト面でも「画面端にスクロールバーなどが見えては興ざめなので、ふさわしい形にした」(ソフト担当の清水寛幸氏)という。

シャープのスマートフォンは、アメリカでブランド力がない。そのため開発チームでは「発表したとしても注目されないのでは」と危惧していたという。だが結果的に、アメリカでは「シャープ」でも「アクオス」ではなく「フレームレス」という部分に注目され、多くの報道が行われた。開発チームとしてはそれがうれしかった。なにより、彼らが信じた部分を、アメリカのユーザーが驚いてくれたからだ。

「魅力ある低価格モデル」を高く売る日本市場

アクオス・クリスタルは、いわゆるハイエンドモデルではない。アメリカ市場の状況も鑑み、スペックや機能は抑えめにし、入手しやすいモデルにしている。「フレームレス一点突破」も、スペックを抑えめにしたゆえのものでもある。価格は、スプリント向けが239.99ドル、同社のMVNOであるヴァージンモバイル・ブーストモバイルでは149.99ドルだ。しかもこの「149.99ドル」は、長期契約による縛り無しでの価格である。日本メーカーはハイエンド製品では強いものの、低価格モデルに弱いと言われている。その中でこれだけの商品力を出せたことは特筆に値する。

しかし、日本での売り方は少々異なる。日本では、アクオス・クリスタル本体全量に「Harman Kardon ONYX STUDIO」という大型スピーカーがセット販売される。販売価格は、一括の場合で5万4480円。新規やMNP(番号持ち運び制度)で購入し、2年間使い続ければ「実質0円」となるわけだが、アメリカの価格に比べるとシンプルでなく、いかにも高い。シャープは製品をソフトバンクに納入する立場であり、販売施策はソフトバンク側の判断だ。Harman社とは、圧縮音源の復元技術「Clari-Fi」の導入で協力体制にあり、「その音質を判断していただくのに適切なセット」(澤近室長)というものの、日本の販売形態にあわせた強引なセット化、という印象が否めない。

スマートフォンのさらなる普及を考える上では、「特徴のある低価格モデル」の存在が必須だ。そうしたものを日本メーカーからも提案できる状況において、ソフトバンク側の販売施策が少々硬直した状況にあり、「もったいない」と感じるのは、筆者だけではあるまい。

西田 宗千佳 フリージャーナリスト

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にしだ むねちか / Munechika Nishida

得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、『アエラ』『週刊朝日』『週刊現代』『週刊東洋経済』『プレジデント』朝日新聞デジタル、AV WatchASCIIi.jpなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。著書に『ソニーとアップル』(朝日新聞出版)、『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社)、『スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場』(アスキー新書)、『形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組 』『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(すべてエンターブレイン)、『リアルタイムレポート・デジタル教科書のゆくえ』(TAC出版)、『知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?』(共著、徳間書店)、『災害時 ケータイ&ネット活用BOOK 「つながらない!」とき、どうするか?』(共著、朝日新聞出版)などがある。

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