激論!日本の大手メディアはクラウド時代に耐えられない 池田信夫×岸博幸
これまで新聞社にとって輪転機や専売店は資産だったが、今では負債。テレビ局にとっても、1兆円をかけて全国に整備したデジタル放送の中継局はいきなり負債だ。ネットがものすごく情報の流通コストを下げたわけで、それは逆らいようがない。実際、新聞社が次々と潰れた米国では、記者が個人メディアをつくって活躍している。
岸 そこが米国のジャーナリズムの優れているところでもある。紙の発行をやめてもウェブ上で価値のある報道を続けている。しかし日本の新聞社の記者は、ジャーナリストと称するサラリーマン。新聞社が潰れれば、別の仕事に行ってしまうように思う。
池田 それは個人の能力とかやる気次第でしょう。文化、ジャーナリズムという言葉は、特殊指定や再販価格拘束などを正当化するとき、要するに特権を守りたいときに出てくる言葉だ。
米国ではウェブメディアのハフィントン・ポストがワシントン・ポストよりも多くの閲読者を集める時代に入った。競争環境の中でやりなさい。特権階級意識は捨てなさい。それしか言えないな。
岸 とはいえ、新人を育成する仕組みがなくなってしまう点は大きな問題だ。文化は一度壊れてしまうと本当に深刻。スペインの音楽業界では昨年、売り上げベスト50にスペイン人アーティストが1人もいなかった。フランスも悲惨で、昨年フランス国内でリリースされたアルバムの中で、フランス人アーティストのものは前年比6割も減った。
儲からないからアーティストが失業している。一定の収入の中で新たな才能を発掘したり養う仕組みが瓦解してしまった。ネット時代にもアーティストや作家などに報酬が回る仕組みをつくらないと、その地域なり国なりの文化は崩壊してしまう。
池田 確かにネットでモノを売るのは本当に大変。アゴラブックスでも、思うようには本が売れない。電子書籍は本の形をとっているから、紙の本からの連想でカネを払ってくれるけど、それがいつまでもつか。むしろネットはタダであっても有料のセミナーをやるとか、そういうリアルなところで稼がないと。