北総線の運賃値下げ、一体いくらが適切なのか 財源確保に、国や県のイニシアティブを期待

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2.メタボ運賃の解消

京成高砂から北総線を通り成田空港を結ぶ成田スカイアクセス線の運賃の特徴は、下図のように極端な近高・遠安のカーブを描いており、途中の〝腹部〟が異様に大きくせり出しているため、「メタボ運賃」と呼ばれる遠距離逓減運賃である。また、北総線区間はかなり運賃上昇が大きく、同区間が終わる印旛日本医大から成田空港まではかなり緩やかな上昇になっている。親会社の京成本線はほぼ距離比例運賃を採用している(京成成田ー成田空港間は加算運賃あり)。

北総線(成田スカイアクセス線)と京成本線の運賃カーブ(北実会作成)

「住民の犠牲の上に成田空港へ安く乗客を運んでいる」とし、北実会はこの運賃体系が鉄道事業法で禁止する差別的運賃だと主張してきた。

住民による値下げ訴訟でもこの主張がされたが、裁判所は「メタボ運賃」とされる北総の遠距離逓減運賃について、すべての旅客に同様に適用されるから鉄道事業法で定める「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの」に該当しないとして退けた。ここで問題になるのは、「特定の旅客」の解釈だろう。住民でも旅行客でもこの運賃が適用されるのは当たり前だ。問題は実態として沿線住民は毎日のように高額運賃を強いられているということだ。多少なりとも是正する勇断に期待したい。

京成と北総の線路使用料は6倍もの開き

3.京成等との契約の是正

成田スカイアクセス線の鉄道会社の関係は複雑だ。ここでは紙面の都合があるのでその関係は2018年3月2日付記事(「運賃高すぎ」北総線、印西市長が値下げ要求)をご覧いただきたい。

京成高砂―小室間で京成と北総線が線路を共用しており、設備の保有者は北総で、京成は北総に線路使用料を支払っている。小室―印旛日本医大間は京成の100%子会社である千葉ニュータウン鉄道(以下、CNR)が所有しており、北総と京成は同区間の線路使用料をCNRに支払っている。

京成が北総鉄道に支払っている京成高砂―小室間の線路使用料の金額と、CNRが所有する小室―印旛日本医大間の京成と北総の線路使用料の差が問題になってきた。ここでは後者のCNRの線路使用料の差をみると、年間走行距離差は約1.3倍なのに、その線路使用料はおよそ約6倍もの差があるのだ(2019年度)。

CNR区間線路使用料・・・走行距離は約1.3倍だが、使用料は約6倍の差
京成 4億2866万円(走行距離49万km)
北総 24億7986万円(走行距離62万km)

ただ、CNRは同社区間の「旅客運送費用分」を北総に払っていると言っている。このことから北総は、自社の負担はすべて回避されており、合理的だと主張している。つまり、CNR区間を走らせている北総にはリスクも利益も生じないということを言っている。

しかし、北総はこの高額の線路使用料が原因で同区間では赤字を出していることが、値下げ二次訴訟で明らかになっている。「旅客運送費用分」の中身が明らかでなく、問題視されている。

北総がCNRに支払う線路使用料は北総がCNR区間であげる運賃収入相当額という契約となっている。これは北総がいくら収入を上げても1円も利益が上がらないという意味だ。また、この契約をCNRの累積欠損の解消まで見直さない協定(1988年)があり、北総は条件変更を拒んでいる。

1988年当時は北総の経営破綻リスクを回避するという意味で、この条件は合理的と判断したのかもしれないが、それから40年以上が経ち、24億円あまりの収入がある現在、そのすべてをCNRに支払うという契約内容は合理的であろうか。通常であれば企業の経営陣は自社に有利な契約を目指し職務を果たすのが当然だ。しかし、北総の社長は京成の取締役でありCNRの社長であるという関係が長く続いてきた。

次ページ線路使用料を半額にすれば12億円の原資
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