日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている

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だったら、均等法導入後の入社組であれば、この格差は埋まったのでしょうか。次のグラフを見ると結構、衝撃的です。

男女雇用機会均等法が導入された後、確かに女性社員の給与は大きく上がりました。20代から30代前半にかけて累計すれば昭和の時代よりも1400万円は高いかたちで、社会人の出だしでの格差は一見埋まっています。

しかし30代に入り、男性社員が主任となり、リーダーとなり、より上の管理職へと上がっていく時期に、あくまで世代平均ではありますが、女性正社員の給与グラフは昭和の女性のほうに近づいていくのです。

この現象にも日本企業からは有力な反論があります。

「機会は均等なのだけれどたまたまフェアに評価をしてみたところわが社の女性社員は昇進できるスキルをもっていなかった。これは結果の不平等であって社会的には認められている範囲内だ」

という反論です。

ただし、たまたま日本全体を平均してここまでの状態になるというのはたまたまとは言えないでしょう。そして結果の不平等は特に欧州では必ず是正しなければいけない項目です。このあたり、日本の政治が変えていくべき課題があることは明白でしょう。

平均からは格差の分布を見られない

さて、給与の格差という意味ではもうひとつ、絶対に無視できない大きな問題があります。それは給与水準が低く抑えられている非正規労働者層が拡大しているという問題です。

今の日本には3段階の格差があります。富裕層と庶民の格差、男女の格差、そして正規・非正規間の格差です。それらすべての平均値をとったのが冒頭の「日本人の平均年収は433万円です」という数字であって、平均からは格差の分布を見ることができません。

そこで次のグラフをご覧いただきたいと思います。

このグラフはたとえば年収100万円未満の男性が男性従業員全体の何%なのかといった具合に、男女別年収階層別の世の中の人数分布を示したものです。総じて男性よりも女性のほう収入階層の低い人が多いことがわかりますが、それ以上に目立つのはいわゆる低所得層に相当する人数が男女ともに多いことです。

年収200万円未満の層が全体の30%、女性に限れば38%がこの所得水準に入ってきます。確かに統計数字だけを見ていると日本人の平均は433万円近辺にくるのでしょうが、平均数字はどうしても年収700万円以上の裕福な会社員の数字にひっぱられてしまうわけです。

そして年収700万円を超える層はほぼ男性に偏っていて、男性全体の20%がそれに該当します。この層がアベノミクスでどんどん豊かになっている層であって、国民全体では給与は増えていない。この秋、物価が上昇する中では、国民感覚では実質給与はむしろ下がっていきます。

年功序列と男女格差をなんとかしようと過去30年にわたって国も経済団体もチャレンジをしてきたわけですが、結果をこのように分析してみるとわかるとおり、改善されたのはほんの部分的なことであって、依然、わが国の給与制度には本質的な問題がとり残されたままなのです。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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