ドリームキャストの壮大な失敗に見た多大な教訓 工程の中で重要なボトルネックはどこなのか

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実態として、どう機能しなかったのか、なぜ機能しなかったのかはテクニカルな話になるのでここでは置いておきます。問題は、このようにプロジェクトの柱となるハードウェアの心臓部分の管理が不十分だったことにあります。

年末商戦がすべてを決めるゲーム業界、そしてプレイステーション2が出る前に市場を制するためには、1998年11月27日という発売時期は動かせなかったはず。スケジュールの実現には、ソフトウェア開発などの後工程にも影響するグラフィックス用半導体のマネジメントは最重要課題でした。しかし実際には管理が甘く、致命傷になってしまいました。

組織の「実行力」は、ほかの工程にまで影響を与える「ボトルネック」をコントロールできるかにかかっています。「ゲームと通信の融合」というコンセプトを描いたセガの構想力には素晴らしいものがありました。しかし、それを実現するための実行力というピースが欠けていたのでしょう。

入交氏は当時を振り返ってこう語ります。

「最初に歯車が狂うとその修正がいかに難しいかを身をもって知ったのがドリームキャスト事業でした」

この言葉は、すべてのビジネスに通用します。最初の歯車をスムーズに回せるかどうか。そこには、ボトルネックを正確に見極めて、それを確実に前進させていく企業の実行力が問われているのです。

「実行力」の正体とは?

私たちが関与しているプロジェクトの多くは、スケジュールがタイトであり、限られたリソースの中で行われるものです。外部の関係者が関与するケースもあるでしょう。

『世界「失敗」製品図鑑 「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道』(日経BP)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

そんな状況では、すべてのタスクを等しく扱ってはいけません。工程の中でいちばん重要でほかに影響を与える「ボトルネック」を見極め、そのタスクをさらに分解して、最重要部分に対して優先的にリソースを張りながらリーダーがタイムリーに指示をしていくことが重要です。

プロジェクトの大小に関係なく、この「タスクの分解」「ボトルネックの見極め」「リーダーの関与」ができていない仕事は何らかの破綻を迎えます。これが「実行力」の正体にほかなりません。

このドリームキャストの壮大な失敗は、残念な結果ではありましたが、私たちに「実行力」の本質を考えさせる事例です。

荒木 博行 学びデザイン社長

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あらき ひろゆき / Hiroyuki Araki

住友商事、グロービス(経営大学院副研究科長)を経て、株式会社学びデザインを設立。フライヤーやNewsPicks、NOKIOOなどスタートアップ企業のアドバイザーとして関わるほか、絵本ナビの社外監査役、武蔵野大学で教員なども務める。『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』シリーズ(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』(日経BP)など著書多数。

 

 

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