アステラス製薬、3000億円買収会社に思わぬ試練 期待を寄せる遺伝子治療薬は実を結ぶのか

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もちろん、そうした状況に手をこまねいているわけではない。2021年7月にはアメリカで尿路上皮がん治療薬「パドセブ」の正規承認を取得。開発が佳境を迎えている婦人科領域の「フェゾリネタント」への期待も大きく、それぞれピーク時には4000億円、5000億円の大型薬に成長すると見通している。

だがこの規模まで大型化するには10年以上かかるうえ、新薬は継続的に生み出さなければならない。焦点は、今見えているこれらの薬の「次」だ。

現在の安川社長は、2018年の社長就任以後、従来の研究開発スタイルを大々的にシフトしている。それまでは泌尿器や免疫関連など、開発を狙う薬の領域をあらかじめ定めていた。だが、新しいスタイルでは研究開発の“出口”を決めず、創薬技術をベースに研究開発を進める方針にシフトし、研究の“入り口”を強化した。

遺伝子治療の分野に注いだ大金

その戦略の一環で、自社に足りない技術を補うような会社を次々に買収してきた。ターゲットになったのが、遺伝子治療やがん免疫などの4つの分野だった。今回のオーデンテスもその1社だ。数百億円規模にとどまるほかの分野への投資額に比べ、遺伝子治療を担う同社への投資額は突出して大きい。

新たな研究開発スタイルで有望な新薬を生み出すこと、特に多額の資金を注ぎ込んでいる遺伝子治療の分野で結果を出すことは、安川体制の通信簿にも直結する。

アステラスはこの研究開発戦略でこれから生み出す新薬を合わせて、2030年に売上高5000億円という目標を掲げている。また、足元では3.5兆円の時価総額総額を、2025年までに倍の7兆円に高めるという。

安川社長は「アステラスがやろうとしていることがちゃんとできれば世間はこれくらいの評価をくれるはずだというストーリー」と話す。こうした中で、遺伝子治療の位置づけは特に大きいだろう。

AT132の治験中断があっても、治験に入る前の新薬候補を含め、遺伝子治療そのものをやめるという選択肢はないはず。アステラスにとっての正念場は続く。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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