フェイクニュースを生む「こたつ記事」とは何か デマやガセに騙されるのは読者のせいじゃない

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「SNSのデマで不足しています。お年寄りが並んでいます」とやるから品薄が加速した。一度流れができると、メディア間の相互作用で不確実な情報が入り交じる。大きなパワーを持つポータルサイトやテレビが最後に拡散のトランペットを吹く。訂正情報は出しても拡散力が弱く、弱いどころか、全然違う文脈に変換されていく。

外出自粛要請で東京から出られなくなるのを恐れた若者がバスターミナルに押し寄せている、というフェイクニュースも、「#東京脱出」がツイッターで拡散していると新聞が記事化し、テレビや地方メディアに影響が広がった。これも記事化前のツイート数はたった28件。どちらも事実未確認のままフェイクニュースを拡散させた例。何を信じていいのか、世の中の羅針盤を失うということです。

こたつ記事をばらまく「ミドルメディア」

──生態系汚染の中核として指摘されているのがミドルメディア。

ブログ・掲示板などソーシャルメディアの情報を集約してマスメディアに紹介する、ニュースサイトやまとめサイトの類いですね。フェイクニュースはこのミドルメディアによって生成され、ポータルサイトを頂点としたニュース生態系で拡散・循環します。

藤代 裕之(ふじしろひろゆき)/1973年生まれ。広島大学文学部卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科修士課程修了。徳島新聞社、NTTレゾナントなどを経て2020年から現職。専攻はソーシャルメディア論。著書に『ネットメディア覇権戦争』『発信力の鍛え方』、編著書に『ソーシャルメディア論・改訂版』など。(撮影:今井康一)撮影)

2006年にライブドア事件で新聞がポータルサイトから記事を引き揚げ、その穴埋めにミドルメディアの記事がかき集められた。それが意外とウケた。ポータルサイトはPV(ページビュー)を稼げれば素性のわからないサイトでもいいわけで、以後ミドルメディアは雨後のたけのこのごとく増殖した。

経営が脆弱な彼らにとって、既存メディア攻撃は手軽にPVを稼げる格好のテーマ。引用元やデータの提示がなく、事実確認できないサイトも多い。ネタを引っ張ってきて自由に編集し、存在しない書き込みだって捏造可能。新鮮で驚きに満ちているので、読者は「真実はこっちかもしれない」と幻想に陥る。陰謀論への扉です。

──ポータルサイト側は、この状況をどうみているのですか?

自らはコンテンツを掲載する場=プラットフォームであると主張し、責任を曖昧にしてきた。彼らは低コストでPVを稼ぐ手段として、ネットの反応を記事化する手法を生み出した。取材なしで書ける「こたつ記事」はデータも根拠も示さず、「ネットで話題」と銘打って簡単に記事を作れる。最近テレビや新聞も手を染めていますよね。ネットで影響力の弱い既存メディアがPVを重視するようになり、ミドルメディア化している。

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