市場重視の政策が今や時代遅れに見えてきた訳 財政政策に隠れて各国で息を吹き返す産業政策

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日本もこうした流れから無縁ではありえない。今、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)を推進する動きがあるが、そこでは先端産業の製品が重要な意味を持つ。

半導体、リチウムイオンバッテリー、太陽光や風力発電の設備などのハードウェアだけでなく、そうしたハードウェアを活用するシステムの活用が求められる。

こうしたハードウェアやソフトウェアをすべて海外からの輸入や海外の企業のサービスに委ねることは、日本の利益にならない。どこまで政府が関与するのか、どこまで自前主義を貫くのかという問題はあるが、すべてを海外に委ねるという道はないだろう。

かつて日本の産業政策は海外から大きな注目を浴びていた。世界に冠たる自動車産業やかつてのエレクトロニクス産業の発展は、その多くが民間企業の努力によるものであるとしても、政府の産業政策がそれなりの役割を果たしてきたと認識されてきた。

この30年はどうだろうか。エレクトロニクス産業にはかつての栄光はない。日の丸半導体は、1980年代には世界の50%前後のシェアを誇り、アメリカなどから日本の産業政策が厳しく批判されたものだ。今やシェアは10%にすぎない。

韓国のサムスンの時価総額が日本の主力企業を大きく凌駕していることも、日の丸エレクトロニクスの凋落を象徴している。

自動車はどうだろうか。日本の自動車産業は健闘しているが、世界の自動車が電動化に向かって大きく舵を切ろうとしている中で、かつてのエレクトロニクスと同じような流れになるのでは、と恐れる人は多いはずだ。

こうした主力製造業の凋落を考えると、その理由の大半は民間企業にあるとしても、産業政策は機能していたのかという強い疑問を持たざるをえない。

日本経済の低迷は生産性の伸びが非常に低いこと、企業の投資意欲が弱いことなどサプライサイドの要因が大きな原因となっている。そこから抜け出すには、ディマンドサイドでいくら需要を刺激しても限界がある。サプライサイドから投資を促し、生産性の伸びを高めるような企業行動を起こす必要がある。だからこそDXやGXが重要なのだ。

ポストコロナの政策は財政だけではない

産業政策という言葉で誤解してほしくないが、産業の発展のすべてを政府が手取り足取りで指導するということではない。そんな方法で産業の健全な発展が可能であるはずはない。市場が失敗するように、政府も失敗するからだ。市場よりも政府の失敗のほうが多いかもしれない。

ただ、政府が有効な形で産業発展の道を示すことで、民間の投資や改革を促すことが期待できる。かつての日本の自動車産業の発展の歴史を見ても、民間の力だけで成長したわけではない。適切な産業政策が果たした役割も重要であった。

ポストコロナの経済回復を語るとき、どうしても財政刺激をどこまでやるのかというディマンドサイドの話になりがちだ。しかし、大事なことはサプライサイドへの働きかけだ。半導体産業、自動車の電気化、データ経済の広がり、再生可能エネルギー利用の拡大など、GXやDXを考えるうえで鍵となる産業で、どのような産業政策を取るかである。

伊藤 元重 東京大学名誉教授、学習院大学国際社会科学部教授

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いとう もとしげ / Motoshige Ito

1951年静岡県生まれ。東京大学経済学部卒。1979年米国ロチェスター大学大学院経済学博士号(Ph.D.)取得。東京大学大学院経済学研究科教授を経て、2016年より現職。専門は国際経済学、ミクロ経済学。安倍政権の経済財政諮問会議議員を務め、現在、復興推進委員会委員長、気候変動対策推進のための有識者会議メンバー。
経済学教科書『入門経済学(第4版)』『ミクロ経済学(第3版)』『マクロ経済学(第2版)』(いずれも日本評論社)は定評がある。

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