市場重視の政策が今や時代遅れに見えてきた訳 財政政策に隠れて各国で息を吹き返す産業政策
EU(欧州連合)でもコロナ後の経済復興の起爆剤と位置づけて、気候変動対応として再生可能エネルギーや電気自動車への取り組みを強化している。それらは環境政策でもあるが、産業の成長を支援するという産業政策の色彩が濃い。
世界は今、政府が産業や企業の活動に関与するのはできるだけ避けるべきだという考え方とは正反対の方向に動いているようにも見える。気候変動問題への対応や経済の安全保障という非経済的な要因が深く関わっている面もあるが、注目すべきはその中心たる手法に産業の育成や保護という産業政策的な視点が入り込んでいることである。
これは「産業政策の復活」なのだろうか。
産業政策の背景は市場の失敗だけではない
経済学の基本原理で考えても、市場の失敗が起きるときに政府が政策的に関与することは、資源配分の観点からも正当化できる。
市場の失敗の典型的なケースが気候変動問題である。人々の行う経済活動がさまざまな外部効果をもたらすときには、すべてを自由な市場の活動に委ねるわけにはいかない。
半導体のような先端分野の産業では、技術革新などの影響で規模の経済性が働いている。しかも時間軸が重要な意味を持つ、動学的な規模の経済性である。
そうした産業では初期の段階での政府の支援が、その後の発展に大きな影響を及ぼす。速いスピードで規模を拡大していくという、規模の経済性を働かせられない市場の失敗を補完する政策の役割が、意味を持つのだ。
各国で行われている産業への政府介入の背景を考えると、外部効果や規模の経済性など典型的な市場の失敗以外にも、いくつか重要な論点がある。
そのひとつは経済の安全保障と呼ばれる問題である。アメリカや中国の政府が半導体の支援に熱心であるのは、「優れた半導体の供給の多くを他国に依存することが国家利益に反する」という見方があるからだ。
半導体生産で先端を行く台湾の半導体メーカー・TSMCを巡る米中の確執は、その象徴的なできごとである。中国はTSMCの半導体に大きく依存してきた。それが将来難しくなるということを懸念して、必死になって自国での半導体生産を拡大しようとしている。
アメリカのほうも、TSMCによるアメリカ国内での生産を促すべく、巨額の資金を準備していると言われる。半導体の世界では、各国政府が巨額の資金を投じて自国企業の育成と海外企業の取り込みに走っている。半導体の調達で不利になると国家の安全保障をも脅かす、という考え方がその背後にはある。
安全保障の問題が絡むので市場の自由な動きに委ねるわけにはいかないというのは、狭義の市場の失敗ではない。ただ、技術が先端化するほど安全保障という要素が前面に出てきて、産業政策の導入につながることになる。
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