横須賀市で限界集落が生まれた理由 「日本で最も人口減が進む都市」の実像
市はさまざまな対策を打ってきた。空き家解体費用の一部助成のほか、県立保険福祉大学の学生が空き家に入居する際に家賃を補助する事業など。そして今春から始めたのが空き家バンクだ。稲荷谷戸にある空き家の情報を市のホームページに掲載して、売り手(借り手)と買い手(貸手)をマッチングする。谷戸地区は自然に恵まれ、眼下に海が広がるなど眺望もいい。そうした点をアピールして若い世代を呼び込もうという狙いだ。
谷戸地区で新たに暮らす若者も
空き家バンクの開設を待たずに谷戸地区に入居した若者もいる。作業療法士の森島肇さん(31)は今年7月、逗子市内から稲荷谷戸の空き家に引っ越してきた。
高齢者を含めたコミュニティ作りに関心のある森島さんは、自ら空き家を利用し地域に溶け込もうとする。家賃は約10畳の1Kで月3.9万円。「谷戸は静かで涼しく、作業に集中できる。周りの方々も受け入れてくれた」(森島さん)。先日は近隣の住民と焼き肉パーティも行った。「何かの時に頼みやすい」「自分も若返った気分」。高齢の住民からはそんな声をかけられた。ゆくゆくは京浜急行線の駅近くに高齢者が気軽に利用できる小規模多機能施設を作りたいと考えている。
別の谷戸地区にある空き家を活用するのは、相澤謙一郎さん(38)。サッカーJ1の横浜F・マリノスや自治体のスマートフォン向けアプリなどを手掛けるITベンチャーの経営者だ。本社は岐阜県大垣市にあるが、今年8月から横須賀の空き家を開発拠点として利用する。
相澤さんは横須賀市の出身。「アプリ開発は場所をいとわない。横須賀が衰退していると聞いて、少しでも地元に貢献できればと思った。ベンチャーが空き家を利用すれば、産業振興にもつながる」(相澤さん)。空き家は延べ床面積約110平方メートル、家賃は月6.9万円。事業が軌道に乗れば他のベンチャー経営者にも声をかけ、谷戸をIT企業が集結する「横須賀バレー」に変える構想を持つ。
空き家バンクは始まったばかりだが、横須賀市の鈴木課長は「問い合わせも多く、ここまで反響があるとは思わなかった」と手応えを語る。空き家を活用して若者を呼び込み、社会的循環を作る。市は稲荷谷戸をモデル地区として、他の谷戸にも空き家バンクを広げる考えだ。
谷戸地区はその特異な地形からさまざま問題が先行して起きる「課題先進地域」。そこでどう有効な手を打てるか。今後空き家問題に直面する他のエリアにとっても、一つの試金石になりそうだ。
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