基礎、応用、開発研究のほかに、ボトムアップとトップダウン、という分類があります。研究者の集団(学会などのコミュニティ)が議論を重ね、科学的に意義があることを目指す研究をボトムアップと呼びます。一方で国が方針を決め、それに沿った研究を行うことをトップダウンと呼びます。
しかしこれも幅が広く、ボトムアップといっても政策的に予算付けされた研究予算を獲得するためにトップダウンの意向を混ぜながら進む分野もあれば、トップダウンであるけれども現場の研究の自由度は担保されている分野など、さまざまなタイプがあります。
粗い分け方をしてみると、大学は基礎研究であれ応用研究であれ、研究者の自由度は高くボトムアップ型の研究を謳歌できる場になっています。一方で宇宙開発研究を担うJAXAや、海洋開発研究を担うJAMSTECのような独立行政法人の研究は、国が指し示すことを実施する法人として位置付けることができます。独立行政法人でなくとも、南極に観測船「しらせ」を航行させ、南極での観測研究を進める極地研究所は、1955年に閣議決定された「南極地域観測への参加および南極地域観測統合推進本部の設置について」を基に国の事業を着実に行い進展させています。
ここまで理系を中心に大きな意味での科学の分類を試みてきましたが、もっと詳しく一覧にしてみてみたいという方には、科学研究費補助金、いわゆる科研費の細目分類が役立ちます。ここにも属さない分野がありますが、研究者は基盤的な研究費が必要なため、この中からいずれかの分野を選んで科研費に応募しなければなりません。そうしたこともあり広く研究者に使われている分類表です。
リニアモデルの変化
第二次世界大戦後、アメリカの科学を方向付けた有名なレポートがあります。ヴァネーバ・ブッシュが書いた「科学 果てしなきフロンティア」です。アメリカこそが科学で世界を率いるんだという姿勢を明快に示したこのレポートでは、基礎研究をやっていればそれが応用につながり、やがては市場に役立つ、という説明をしています。基礎、応用、そして開発研究がひと続きにつながる「リニアモデル」と呼ばれました。この考え方は、戦後アメリカの科学の方針となり、それもあって冷戦下で基礎研究に予算を出すことになったといいます。
しかしすでに見てきたように、現在では基礎研究は、かならずしも応用研究の前段として位置付けることは適当ではないことが広く認識されており、リニアモデルは一度、否定されたと言っていいでしょう。しかし時代が進み、「役立つ」科学が求められるようになった今、基礎研究と応用研究はより密接に結び付きを強くしつつあり、「弱いリニアモデル」ともいうべき状態が産まれつつあります。
科学全体の礎となり、イノベーションの核を生み出す可能性があり、そしてなにおりもその国の文化度のバロメーターにもなる基礎科学に、どれだけ力を注げばいいのか。それを決めるのは、その国の国民です。他人ごとだとは思わずに、多くの人に考えてほしいと思います。
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