日本の鉄道がかくも男性中心の職場になったのは、まさに女性のみが深夜業規制の対象となったからで、そのボタンの掛け違いを解消し始めるのに、実に50年を要したことになります。以前に連載で取り上げた「育休3年」も同じ問題です。女性のほうが育休を取る可能性が圧倒的に高いために、女性の労務管理コストのみを上げてしまうのです。
趣味としての鉄道は、男性差別の世界
さて、職場としての鉄道は女性差別の世界だったわけですが、趣味としての鉄道というのも、ずいぶん性別による区分がはっきりした世界です。日本は、鉄道車両のデザインや特徴が、世界一バラエティに富んだ社会なので、鉄道オタクの世界の専門分化も異様なほどに進んでいます。乗り鉄、撮り鉄、音鉄、読み鉄……。しかも年齢層も幅広く、プラレールはレゴのブロックなみに子どもの人気を博しています。将来の夢で「新幹線の運転手になりたい」などと小学生が言うのは、日本くらいのはずです。ただし、趣味としての鉄道は、ほぼすべて男性の世界でした。
ところが女性運転士の誕生同様、この趣味の世界にも女性が入ってくるようになりました。そのパイオニア、酒井順子さんの『女子と鉄道』(光文社)は名著と言ってよいでしょう。帯にあった「茶道、華道、鉄道!」というコピーを見て吹き出してしまい、一気に読みました。三戸祐子さんの『定刻発車』(新潮社)は、日本の鉄道は世界一運行密度が高いのに、なぜ分単位で正確に着くのかを解き明かしたすばらしいノンフィクションで、福知山線の事故を経て読むとさまざまなことを考えさせられます。鉄道写真家でライターの矢野直美さんのお仕事も有名です。
最近は鉄道好きの子ども(子鉄)を連れて、いろんなところに行くうちに、自分もはまってしまう「ママ鉄」もよく話題になります。
しかしなぜ男性の鉄道オタクというと「コミュ障」の代名詞のように扱われるのでしょう? 横に同じオタクがいても、ろくに話もしない。チェックのシャツをジーンズにインで着るようなダサい格好をしている。「素人」相手に、相手の関心とは関係なく、うんちくをたれ始める……。
菊池直恵さんの漫画『鉄子の旅』(小学館)は、そんな案内役の鉄道オタク(横見克彦さん)の言動を、女性の作者が呆れながら冷ややかな目でみる、という「差別的視線」でウケをとっています。
女性の鉄道オタクならば、「言葉」のわかる異性を渇望する男性は山ほどいるので、とりあえず好みを語りさえすれば、異性の鉄道オタクを見つけるのは簡単です。要はリケジョと同じです。ところが男性の場合、よほどの理解者でないかぎり、相手にされないのです。
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