「女性を守る」ために女性が解雇されたワケ 鉄道に見る女性差別と男性差別

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自動車と鉄道の違い

一方、乗り物が好きなのは同じなのに、カーマニアは鉄道オタクとは明らかに違う扱いを受けます。車や列車のうんちくはわからなくても、デートにかっこいい車でドライブの迎えに来るのと、「これがE657系っていう、新しい特急車両で……」では、女性の反応は違うでしょう。つまり鉄道という職場は「女性差別」の世界なのに、鉄道オタクは奇異の目で見られる、「男性差別」の一例なのです。

自動車と鉄道におけるファンの扱われ方は、なぜこんなに違うのでしょう? 私は「助手席」という「女性のための空間」の存在の有無にかかわっているのではないかと考えています。

車の運転をめぐるイメージには、強烈な性役割のステレオタイプが埋め込まれています。デートでドライブのときに運転するのは男性で、女性はお弁当を作ってくる。そして運転席の横には女性のための場所(=助手席)があり、席を倒せば「簡易ラブホテル」にもなる。さらに「初デートでカレが軽に乗ってきたのですが、それって……」というのが、ネットの書き込みサイトで「相談事」になってしまうのは、車の格が男性の経済力を示すからで、まさに男性役割を象徴しています。

そのことを「男性差別」と呼ぶこともできるのですが、鉄道派と違って、車派は恋愛に直結する「勝ち組」なのです。

対する鉄道オタクは、他人としゃべることもなく、ひたすら自分の世界に入り、ある列車が廃止される日には、列車を擬人化して「ありがとう!」と叫ぶ(この分野は「葬式鉄」と呼ばれています)。そりゃあ、こんな「葬式」に付き合いたいと思う女性は少ないでしょう。女性の居場所などなく、女性とコミュニケーションをとろうという意識もないので、女性からの評価が下がってしまうのも当然と言えるかもしれません。

でも、女性のための空間という意味では、鉄道にも寝台列車の個室があります。「カシオペア(全車両個室、上野⇔札幌)で北海道に行こう」と言われて、「えぇ~、飛行機がいい」と言う女性は少数派ではないでしょうか? カシオペアにはラウンジカーや食堂車などがあり、移動自体を楽しめる空間となっていて、朝、目覚めたときに北の大地を走っている爽快感は、飛行機では味わえません。

う~ん。ですが、だとすれば「男性差別」に遭わない鉄道オタクというのは、鉄道大学、乗り鉄学部、寝台列車学科、個室ゼミ所属の人だけということですね。あまり救いにならないような……。

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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