人によって「治る」ゴールは異なる
伊藤:これから新型コロナウイルスと共生していくのであれば、「治る」とは何かということをもう一度考えなおすことが、社会にとって必要な変化になっていくのではないかという気がします。「治る」というのは、ある種、自分の輪郭を再獲得することだと思います。
例えば、新型コロナウイルスに感染したとき、自分の中に棲み着いたウイルスを排除する、つまり自分でない存在を外部に出して、「自分の輪郭はここまで」とすることが「治る」ということなのだと思いますが、私がずっと関わってきたような病気を持っている人たちの輪郭はそんなに単純ではありません。
幻聴が聞こえる精神疾患を持つ方の場合であれば、その幻聴が自分なのか自分ではないのかというのは非常にあいまいで、「治る」ということは幻聴をなくすことではなかったりするわけです。
人によっては、幻聴とともにうまく生活していくことが「治る」ゴールだということもありますし、何をもって「治る」とするのかは、本当に人それぞれです。でも、これまでの医療の仕組みでは、これが人間の健康な体であるという1つの「正解」があって、病人をその「正解」まで持っていく作業が行われてきました。
そこには、非常に強い抑圧的な力がはたらいていたはずです。人それぞれの「治る」ゴールが許されないというのは、とてもしんどいことだと思います。