コロナ下の株高を説明する最新経済理論のツボ 行動経済学が明かす意識への刷り込みのパワー

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いったん3万円という株価を経験すると、その水準が刷り込まれていって、そこから数千円下がっただけでも株価が大幅に下がってしまったと感じる。ほんの1年半ほど前には1万6000円台の株価を経験したというのに。

効率的市場仮説が正しければ、経済の変化に株価は敏感に反応するはずである。しかし現実には、いったんある水準で安定すると、そこにしばらくとどまっている傾向があるように見える。

コロナ禍の直前には日経平均は2万3000円前後であったが、これは2013年以来のアベノミクスの流れの中での株価水準であり、それ以前は1万円前後という状態が長く続いていた。

恣意の一貫性が、歪んだ資産価格を支える

為替レートについても同じだ。現在、円ドルレートは110円前後でずっと推移している。私たちもこれが当たり前のように感じている。

しかし、10年ほど前は80円前後で推移していたし、それを当たり前のように感じていた。いま、80円というとべらぼうな円高に見えるし、当時であれば110円というのはかなりの円安と感じたに違いない。

もちろん、この間にアベノミクスの下での大胆な金融緩和があった。そのため為替レートが変化するのは当然である。ただそれにしても、それだけで80円から110円へと見方が大きく変化したことを説明するのは難しいようにも思える。

コロナで実体経済が非常に弱いのに、株価が非常に高い状況をバブルということは難しい。バブルは非合理的な投資行動によって起こされるが、非合理的に見えるすべての資産価格形成がバブルというわけではない。恣意の一貫性という現象が時として歪んだ資産価格を支えることもあるのだ。

コロナ禍がいつ収束するのかは見通せないが、いずれそうした事態になったとき、経済にはさまざまな変化が起きてくる。それによって現状の恣意の一貫性がどのように崩れていくのか、注意する必要がある。

伊藤 元重 東京大学名誉教授、学習院大学国際社会科学部教授

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いとう もとしげ / Motoshige Ito

1951年静岡県生まれ。東京大学経済学部卒。1979年米国ロチェスター大学大学院経済学博士号(Ph.D.)取得。東京大学大学院経済学研究科教授を経て、2016年より現職。専門は国際経済学、ミクロ経済学。安倍政権の経済財政諮問会議議員を務め、現在、復興推進委員会委員長、気候変動対策推進のための有識者会議メンバー。
経済学教科書『入門経済学(第4版)』『ミクロ経済学(第3版)』『マクロ経済学(第2版)』(いずれも日本評論社)は定評がある。

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