テーパリング議論で注目「米雇用統計」のジンクス 80万人増が雇用の「顕著な進展」のラインだが…
タカ派の関係者が雇用の「顕著な進展」としているラインは、80万人増(前月比の非農業部門雇用者数)。その水準に達すれば、9月下旬のアメリカ連邦公開市場委員会(FOMC)で緩和縮小を決定し、10月から開始できると主張している。
では、80万人増という水準はいったいどれほど現実味があるものなのか。市場関係者による事前予想は平均すると75万人。それを上回ることになるが、ここで雇用統計のあるジンクスが浮かび上がってくる。それは8月分の雇用統計は、市場予想を下回るケースが多いというジンクスだ。
市場予想を上回ったのは2回だけ
実際に過去10年の8月分の雇用統計の状況を見てみると、市場予想を上回ったのは2回だけ。8回は予想を下回る結果になっている。

さらに言えば、今の流れは緩和縮小をめぐって議論をかわしていた2013年と重なっているようにも映る。
当時FRB議長だったベン・バーナンキ氏が、緩和縮小を示唆する議会証言を同年5月にしたことで、市場が一時混乱。その後もタカ派の理事たちが、早期の緩和縮小を講演やメディアを通じて訴えたことで議論が盛り上がっていったが、8月分、9月分の雇用統計の結果が弱く、市場予想を下回ったことなどから、結局緩和縮小を決めたのは年の瀬が迫ったFOMCだった。
当時、バーナンキ氏に早期の緩和縮小を強く訴えていた理事の1人は、パウエル氏だったとされている。「バーナンキ・ショック」として市場の混乱を招いた苦い経験が、パウエル氏の脳裏にも焼き付いているわけだ。
そのため、仮に8月分の雇用統計が市場予想を上回る結果になったとしても、パウエル氏を中心にハト派のメンバーが8年前の教訓から目を背け、直後のFOMCで緩和縮小に一気に傾いていくとは考えにくい。
SMBC日興証券の野地慎チーフ為替・外債ストラテジストは「直近のアメリカの消費者信頼感指数が悪化するなど、デルタ株の影響がアメリカ経済に影を落とし始めているというのが今の状況だ。雇用統計がいくら上振れたところで、12月のテーパリング(緩和縮小)開始というコンセンサスは揺るがないはずだ」と指摘する。
緩和縮小とその先にある利上げに向けて、FRBが今後どう地ならしを進めていくか。市場との丁寧な対話がこれまで以上に求められそうだ。
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