なくならない「夜逃げ」背景にあるそれぞれの事情 ある日消えて連絡が取れなくなってしまう

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今回の3人はいずれも若くて体力も、その気になれば仕事もある。だが、こうした生活を続けられたとしても、年齢とともに状況は厳しくなる可能性がある。太田垣氏の経験でも高齢者の夜逃げでは60代以上で、健康を害したなどでの理由から日雇いで働き続けるのが難しくなり、家賃が払えなくなってのものが多いという。

男性、特に単身の高齢者は社会とのつながりが希薄とされている。例えば、2017年の国立社会保障・人口問題研究所の生活と支え合いに関する調査(旧:社会保障実態調査)には年齢、性別、家族構成別の周囲とのつながりに関する項目があるのだが、単独男性高齢世帯では14.8%が2週間に1回以下しか他人と会話をしていない。単独女性高齢世帯では5.4%である。同様に日頃のちょっとしたことで頼れる人がいるかとの問いに対し、単独男性高齢世帯ではいないとの回答が30.1%に対し、女性は9.1%となっている。

孤独死も圧倒的に男性が多い。2021年6月に発表された日本少額短期保険協会孤独死対策委員会の第6回孤独死現状レポートによれば、2015年4月~2021年3月までに亡くなった5543人のうち、男性は4614人で83.1%を占めている。亡くなってから発見されるまでの日数は、平均すると男女とも変わらず17日となるが、3日目までに発見される割合は女性が50%なのに対し、男性は38.4%となってもいる。

不動産業界も手を打ち始めている

そうしたことを考えると、石塚氏のように「頼ることができる」存在は大きい。実際、これまで石塚氏を頼って来た人たちの中には、ここで得た住まいと仕事から暮らしを立て直している人も少なくないという。

石塚氏のようにボランティアでこうした活動をする人を増やすことは容易ではないが、幸い、2021年7月28日には厚生労働省が不安定居住者のための支援情報サイトと住まいの困りごと相談窓口「すまこま。」をスタートさせるなど、国や業界団体なども手を打ち始めている。滞納が発生してもきちんと相談すれば、分割で払えるような方法を一緒に考えてくれる不動産会社もある。

ただ、社会からの孤立、人に頼りたくないという気持ちなどが夜逃げにつながっているのだとしたら、不動産からのアプローチだけでなく、もっと社会的な対策が必要なのかもしれない。

夜逃げについては正式な統計がないため、個別のケースを総括して男性のほうが多いと結論づけることは避けたい。しかし、これまでは住宅に困っている人の課題は十把一からげにされがちだった。実際にはそれぞれに異なる事情があるはず。もう少しきめ細かに各人の事情を調査、研究、対策を考えるなどの必要があるのではなかろうか。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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