なくならない「夜逃げ」背景にあるそれぞれの事情 ある日消えて連絡が取れなくなってしまう
また、同氏によると、女性の夜逃げでは本人を探せない状態に陥ることは少ない。女性側が提供する情報がすべてうそということは少なく、親族や勤め先の人など、誰かしらコンタクトを取れる人がいることも少なくない。
「ところが男性、特に60代以上の場合には、何十年もそこに住んでいながら周囲との人間関係がまったくなく、住民票も移しておらず、契約書に書かれた住所が逃げた場所の住所になっているなど、本人を探す手がかりがないこともしばしば。身元不明で、本当にその人が存在していたのか、疑いたくなることがあるほどです」(太田垣氏)
現在の賃貸借契約で住民票その他公的な本人確認書類を添付しないことは考えられないが、20年前、30年前にはそうした契約もありえた。免許証、保険証のコピーすらない契約だったケースで、住民税、年金、保険を払わず、身元確認が必要ない、日払いの仕事をしていた場合、探しようがない。名前すら本名かどうかも疑わしいのだ。
身元不明者は男性のほうが多い
実際、男性のほうが身元不明になる確率が高いことを示すデータがある。行旅死亡人の統計だ。行旅死亡人とは氏名、本籍地や住所などがわからず、かつ遺体の引き取り手のない人のことを言う。漢字の印象から行き倒れて身元がわからない状況を想像するが、実際には亡くなった場所や死因は問わず、自室で亡くなっていても身元がわからない、身分証明書を持っていても身分証明書の本人とは断定できなければ行旅死亡人とされる。自然災害で被災、身元不明の死亡者も同様である。
明治23年の「行旅病人及行旅死亡人取扱法」は「行旅人」が死亡した場合、死亡地の自治体が行うべきことを定めているが、その1つに官報への公告がある。それを収集、行旅死亡人データベースとして集計しているサイトがあるのだが、それによると2010年1月以降2021年8月23日までに公告された行旅死亡人は9393人。そのうち、865人は性別不明で、男性は7096人、女性は1432人。身元不明のまま、亡くなった人のうち、4分の3は男性なのである。
太田垣氏によると夜逃げで目立つのは、高齢男性と20代の若い男性だという。若い人の一部にはそもそも夜逃げという言葉を知らず、夜逃げしている感覚がない例も少なくないという。
「家賃が払えない、出ていけと言われた、だから出てきた、いらないモノは置いてきた、何が悪いんですか?と言うのです。契約を解除しないと次の人に貸せない、残置物は勝手に処分できないから法的手続きが必要などを説明するとわかってもらえるのですが、他人にその影響が及んでいる感覚が薄いようです」
続いて訪れたのは、冒頭で紹介したプライム。石塚氏によると、住む家を失い、同社に部屋を探してほしいと来る人の9割以上は男性だという。
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