陸自の機関銃装備体制に穴がありすぎて不安な訳 必要な性能品質をリーズナブルに調達できてない

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問題は性能だけではない。M3の生産は近く終了する見込みだ。そうしたら陸幕はどうするのか。M3とM4を混在して使うのか。そうなれば兵站も教育は2重になる。M3を採用するならば必要数を一気呵成に調達したほうがよかった。陸自は採用までに時間をかけすぎて、調達する頃には陳腐化しており、装備が生産終了して調達ができないことが多い。これは当事者能力の欠如と言わざるをえない。

防衛省や陸自は「軍隊」として適正な装備を開発、調達する能力もなく、必要な情報収集すらしてこなかったように見える。そして必要な性能品質の装備をリーズナブルな価格で調達するよりも、国内メーカーに仕事を振ることを目的化してきたような調達を行ってきた。

メーカーを弱体化させた要因

それはメーカーの能力や体質を弱め、国際価格の数倍から10倍の値段で、実用性にも疑問符が付くような装備を調達して税金を無駄使いすることになってしまった。その結果がコマツの装甲車生産からの撤退、住友重機械工業の機関銃からの撤退など企業が防衛部門から次々と手を引く事態である。ミネベアミツミや豊和工業の撤退も時間の問題と筆者は読んでいる。防衛省の過保護と開発指導力の乏しさがメーカーを弱体化させたといっても過言ではない。

筆者は岸信夫防衛相や吉田圭秀陸上自衛隊幕僚長、湯浅悟郎前幕僚長らに会見でこうした件について質してきたが、どこに問題があるか認識していないようだった。無論、大臣や幕僚長が個々の装備に微に入り細に入り口を出す必要はないが、仮想敵はもちろん、世界の潮流から何周も遅れている、そして兵站上も大きな問題点を抱えて、税金を無駄使いしている事実すら認識していないのは大きな問題だ。

政府も防衛省も陸幕も今の組織文化を本気で変えない限り、有事になればそのつけを隊員と国民の血で贖うことになりかねない。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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