フィンランド「医療においても日本の先行く」理由 1960年から個人ID導入する国のスゴい医療事情

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調子が悪くなったらすぐに病院で診てもらえるので、「わざわざ一日使って検診に行くなんて面倒くさい」「悪くなったらすぐ病院に行けばいいんだから、検診に時間を取るのはもったいない」という発想です。

でも、皆保険制度の恩恵を本当に享受したいなら、やはりがん検診は必要です。早期発見ができれば、安価で良質な治療を即スタートできるのですから。

受診率が低い理由2:職場健診が手厚すぎる

職場では毎年、健診があります。労働安全衛生法に基づいて、会社などは従業員に健康診断をおこなうことになっているからです。

フランスなどは尿検査くらいですが、日本は胸部X線検査、血圧測定、血液検査(貧血、肝機能、コレステロール値、血糖)、尿検査、心電図と基本メニューをきっちり押さえています。そこに「がん検診」「婦人科検診」をオプションで加えることも可能。

会社は従業員に健康診断を受けさせないと罰金を科せられます。それだけの責任を負っているので、「健康診断イヤだ!」と拒否する従業員には懲戒処分を下してもよいことになっています。

職場の健康診断は「受けるように」というプレッシャーが強いので、ほとんどの人が受けているはずです。健康診断を受けずに降格なんてバカバカしい、費用も会社負担、自分の健康を確認できるいいチャンス。受けない理由などありません。

どうせなら、ついでに「がん検診」「婦人科検診」などをオプションで加えようという方も出てきます。オプションの追加も総務から回ってきた書類に記入するだけなので至って気楽です。

がん検診受診者の3〜6割が職場で受けていることからも、職場健診からがん検診へ、自然とスムーズな流れができていることが見て取れます。

職場健診とは、座っているだけで、自分でオーダーもしていない料理が、自動的に目の前に出てくるようなもの。そこに自分でくっつけるデザートが「がん検診」などのオプション。至れり尽くせりです。でも、これだけ世話を焼かれて何十年も社会人生活を過ごしていると、退職後にちょっと戸惑ってしまう方も出てきてしまいます。

退職後の検診が面倒くさくなる人たち

健診や検診の「段取り」はすべて職場に「お任せ」だったわけですから、退職後に自力で手続きをすることを非常に面倒に感じてしまう方は多くいます。

面倒くささに拍車をかけるのは、「自力で手続き=ほったらかしにされている気分になること」にもあるようです。「地域住民」と「社員」では対象人数がそれこそ桁違い。職場のように名前で呼び合える環境と同等の細やかな対応は、マンパワー的に自治体には難しいのですが、「職場はもっと手厚かった、役所は雑や」と減点思考で判断してしまうのです。

『知らないと怖いがん検診の真実』(青春出版社)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。

そして、「手厚くない→雑だ→いい加減だ→どうせやってる検診もたいしたことない」という論理展開で「行かなくてよろしい」と結論づけてしまいます。

がんのリスクは年齢とともに上昇します。勤め人時代よりも退職後のほうが、検診が必要なのです。

勝手な思い込みでそうした医療サービスから遠ざかってしまうのは、自ら病気やがんのリスクを上昇させてしまう行為と言えます。

中山 富雄 国立がん研究センター検診研究部部長

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なかやま とみお / Tomio Nakayama

1964年生まれ。大阪大学医学部卒。大阪府立成人病センター調査部疫学課課長、大阪国際がんセンター疫学統計部部長を経て、2018年から国立がん研究センター検診研究部部長。NHK「クローズアップ現代」「きょうの健康」、CBCテレビ「ゲンキの時間」などのテレビ番組や雑誌などを通じて、がん予防、検診に関する情報をわかりやすく伝える活動を行っている。

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