フィンランド「医療においても日本の先行く」理由 1960年から個人ID導入する国のスゴい医療事情

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日本人ががん検診に足が向かない理由は、意外に単純ではありません。

受診率が低い理由1:国民皆保険制度の存在

日本の国民皆保険制度は「健康の到達度と均一性、費用負担の公正さ」などが高く評価され、WHO(世界保健機関)から世界一のお墨付きをもらったこともあります。フィリピンやベトナムなどは日本を自国の制度設計の参考にしているほどです。

世界的にもその充実度が称賛されている国民皆保険制度が、なぜがん検診の受診率の足を引っ張っているのか? それは医療サービスへのアクセスが抜群によいことが理由です。

医療制度に関して日本とよく比較されるアメリカの状況を見てみましょう。アメリカは民間保険中心で、公的保険に加入できるのは高齢者、障害者、低所得者とその子どもに限定されています。「自由と自助の精神」を旨とするアメリカ的な制度設計ではありますが、医療費の高騰、無保険者の増加によって「医療を受けられない=医療にアクセスできない」人々の増加が大きな悩みとなっています。

ヨーロッパのホームドクター制度

さて、ヨーロッパではどうでしょうか。ヨーロッパでは多くの国がホームドクター制度を取っています。生まれたときから1人の医師と契約し、緊急事態を除いてその医師に診断を受け、必要があれば専門医へとつないでもらいます。日本のように、「体調不良、即大病院で検査」というわけにはいきません。「ホームドクター」を経由しないといけないのです。

ホームドクター制度の場合、ホームドクターとの付き合いが、それはそれは長いものになります。「どうにも気が合わん」と思っても、ホームドクターを替えるにはややこしい手続きが必要なケースも。

患者さんはホームドクターとはなるべくうまくやっていきたいという気持ちがベースにあるので、がん検診を受けるよう指示があると無下にはできません。イギリスはホームドクター制度にがん検診をうまく組み込み、受け持ちの患者さんががん検診を受けると担当医に一定の金額が入るようにしています。患者の受診率が金額というスコアで示されるのですから積極的に受診をすすめるのです。

日本では、家や会社や旅先で調子が悪くなったとき、それこそ保険証一枚あれば飛び込みでどこの病院でも診てもらえます。「自分が必要としている医療」に簡単にアクセスできるのです。しかも、そこそこ安価で。

医療へのアクセスがスムーズなことはいいことです。しかし、「いつでも病院に行ける」状況が、がん検診へのモチベーションを落としてしまっている面もあると私は感じています。

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