JR西「普通列車で荷物輸送」実施までの全舞台裏 毎週木曜日、伯備線で岡山駅に野菜を運ぶ
比較的車内は空いているが、山陽本線と合流する倉敷あたりからは徐々に車内に立ち客も出てきた。物珍しそうにコンテナを見ながらも、特にそれが乗降に支障があるといった感じではない。岡山駅到着前には「荷物を降ろす関係で、最後部のドアではなく他のドアから下車するご協力を」との案内放送が入った。
この列車は岡山止まりではないが、岡山でしばしの停車時間がある。これも荷物輸送を担う列車には欠かせない条件だ。岡山に到着すると今度はジェイアールサービスネット岡山の職員が結束を解いて、すみやかに荷物を列車から降ろし、エレベーターへ。備中高梁より圧倒的に人の往来が多い岡山の構内で台車を移動させるのは細心の注意が必要だ。無事に改札を抜けると駅コンコースの岡山の地産品が並ぶ「おみやげ街道せとうちCUBE」の軒先に並べられた。
もの珍しい産直品に駅を行き交う人々の手が伸びる一方で、出張帰りにピオーネや白桃といった地産の果物を購入したビジネスマンの姿もあった。案の定、早々に売り切れたのは旬の果物類だ。一方で、玉ねぎやトマトなど普段使いの野菜についてはその使いやすさからすぐに売れていくかと予想したものの、この日の夜まで店頭に残った商品もあった。
日本海の海産物輸送も模索
青果品の購入者は口々に「新鮮でうれしい」と口にしたが、これは各所の尽力を考えればうれしくもありつつ、当然の感想で、そこにフォーカスし続けるわけにはいかない。加えて夏季は農作物も種類豊富だが、冬季にはどうしても出荷できる野菜にも限りが出てくる。
「たとえば、日本海のカニ解禁日の朝獲れたカニなどを運んで、その日中に販売するなどの話題力のある展開も考えています。さらには岡山駅から山陽新幹線に荷物を載せ替えて、各地へ輸送するような計画も考えており、発展性を模索しつづけたい。」(二反田氏)
このプロジェクトは毎週木曜日に実施するという定期性があるため、一定期間が経つと利用者にとっても日常的なイベントとして周知される期待もあるが、一方で鉄道ならではの行動力、地域や生産者の思いなどを、より魅力的に強く感じさせるような取り組みにも期待したい。手に取り、その野菜を味わった消費者が、農業、高梁の地へ思いを馳せられるような工夫、そしてコロナ後の旅の目的地に高梁を加えたくなるような動機づけにつながれば、他に類をみないJR西日本独自のアイデンティティがきらめくはずだ。
ログインはこちら