JR西「普通列車で荷物輸送」実施までの全舞台裏 毎週木曜日、伯備線で岡山駅に野菜を運ぶ

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JR西日本伯備線備中高梁駅から青果を運ぶ。各農家からの集荷と積み込みはヤマト運輸が受け持つ(筆者撮影)

2021年7月29日、JR西日本では同社で初めて在来線普通列車を使用した「荷物輸送」を開始した。

運ぶのはその日の朝、収穫された沿線地域の「野菜」たちだ。コロナ禍で鉄道需要が落ち込む中、JR各社が新幹線や特急列車などその速達性を活かした生鮮品の「荷物輸送」に取り組んでいるが、JR西日本はあえて速達性の薄い、在来線各駅に停車する「普通列車」による荷物輸送を実施。その狙いを探ってみた。

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通常の物流ルートよりも速達性は高い

「意識したのは鉄道間での速達性ではなく、対物流とのスピード感です」。そう語るのはJR西日本岡山支社企画課の二反田 陽介氏だ。二反田氏が所属するのは「ふるさとおこし本部」と呼ばれる部署で、沿線との交流、活性化事業や地域共生事業を企画するユニークな部署だ。

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今回、荷物輸送が開始されたのは岡山県を走る伯備線の備中高梁駅から岡山駅へかけての片道で、毎週木曜日、定期的に高梁市の朝採れ野菜やピオーネ、白桃など地域自慢の青果品を集荷し、伯備線の普通列車で輸送。その日の夕方に岡山駅コンコースの店舗に並べて販売する。あわせて、形が不ぞろい、いわゆる規格外の作物も販売することで、食品ロス軽減にも配慮している。

「通常の物流ルートで野菜を流通させようとすると、市場を経由するのでどうしても2〜3日は消費者の元に届くまでかかります。これが鉄道輸送なら、限りなくダイレクトに生産者と消費者をつなぐことができるはずと考えました。」(二反田氏)。

荷物輸送を担う該当の普通列車は備中高梁を14時27分に出発し、岡山には15時19分着。所要時間は52分だ。

伯備線には特急「やくも」が運行され、荷物を積む備中高梁にも全列車が停車する。特急の同区間の所要時間は33分と20分近く早い。そう考えると普通列車よりも特急で荷物輸送をしたほうがはるかに速達性は高い。

ただ、「確かに速達性は特急には敵わないのですが、一般的な物流ルートと比べれば十分な速達性があります。さらに荷物を積載するスペース、作業時間、ドアの大きさなどを考慮すると、特急列車に積載するのは今回の条件ではベストではありませんでした」と二反田氏は話す。

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