JR西「普通列車で荷物輸送」実施までの全舞台裏 毎週木曜日、伯備線で岡山駅に野菜を運ぶ

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また、特急の場合は備中高梁が途中駅となるため、特急では作業時間が確保できないという事情もある。一方、積載する普通列車は備中高梁で折り返す運用のため、同駅で10分間の停車時間がある。この間にホームから台車ごと荷物を積み込み、指定箇所に固定する。

積載した荷物は誰かが常時監視するわけではなく、基本的には「1人旅」で岡山を目指す。そのため、万が一にも荷崩れを起こしたり、乗客が怪我をしたりしないようにしっかりと固定する必要がある。試験輸送は4回実施されたがそのうち3回は「安全性の検証」に費やされた。

使用する列車形式は伯備線で運行されている車両のうち、「115系」かつ「115系300番台」以外の車両に限定した。同じ115系でも300番台では積載位置にシートがあるためスペースがない。そのため、前日と当日で列車の運用を確認し、イレギュラーで積載不可な車種が充当される場合は荷物輸送自体が中止される。各農家からの集荷をし、列車に積み込むまでは同プロジェクトでタッグを組む、ヤマト運輸が担当する。

「自分の名前が付いた野菜が売れる」

そして肝心の高梁市の生産者とJRをつないだのは、JA晴れの国岡山だ。高梁市を走る国道の横には、産直品の販売所「高梁グリーンセンター」がある。地域に根ざした販売所で年間の売り上げも多い。この場所の雰囲気、品質をまさに岡山駅で展開するのが今回のプロジェクトの大きな使命でもあった。

「ここに並んでいる青果には一つひとつ生産者の名前が付いていて、自身の名前がついた野菜が売れることが農家さんのやりがいにつながっています。加えて、首都圏などに出荷するためには大ロットでまとまった収穫量が必要ですが、そんな大農家ばかりではないのが高梁の農家さんなのです。直売所なら、小ロットでも販売ができる。JRの荷物輸送でこの販路が広がることは、高梁の農業を支え、発展につながるはずです」とグリーンセンターの小見山悟氏が説明する。

「これまで兼業農家だった人が定年を機に専業となるケースも多い。だからといってコストをかけて生産量を上げようとするのは不作時などにリスクも伴う。小ロットでもいいものを作られる農家さんを守るためにも、きちんと収益につなげる機会とメカニズムを作る。これはJAの大切な使命だと考えています」(小見山氏)

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