JR西「普通列車で荷物輸送」実施までの全舞台裏 毎週木曜日、伯備線で岡山駅に野菜を運ぶ

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今回の荷物輸送で特徴的なのが、すべて既存のインフラを活用している点だ。農家各地を周るヤマト運輸も通常の配送ルートを通り、JAも直売所のシステムを応用して対応している。通常、荷物輸送は片道が空荷になり、ロスとなることも多いが、これも既存の運行列車に積載して戻せばよい。さらに普通列車での取り組みで前例を作ることができれば、長距離のローカル線を持つ、JR西日本管内全域でも同様の取り組みが実施できる可能性が生まれる。

野菜を育てる生産者もこの荷物輸送に思いを乗せる。「直売所に卸した後も売れ行きが気になって見に行ってしまう」と苦笑するのは高梁市の農家、笹田貢治さんだ。小宮山氏も「ナスづくりの名手」として信頼を置く存在で、「ナスは早朝の収穫にこだわっています。そうすることで味はもちろん、日持ちもまったく変わってくる」。

収穫後、消費者の口に入るその瞬間までのことを考えて農業に大きな誇りを持って、夫婦で日々、畑と向き合っている。

そんな笹田さんも小ロットの生産者の一人。直売所ならこうした名手の野菜も購入することができる。「それが今回は多くの人が通る岡山駅で販売してくれる。本当にうれしい」と期待を膨らませていた。

構内移動は「安全」に留意

荷物輸送の初日、各農家から集荷した農作物を積んだヤマト運輸のトラックが備中高梁駅に到着。速やかに専用のロゴマークが書かれたコンテナに積み替える。初日は17品目約170点が岡山駅を目指す。旅客鉄道での荷物輸送でネックとなるのはその「動線」だ。駅構内やホームに続くエレベーターや通路は基本的に荷物を運搬するためのものではなく、あくまでも人を運ぶためのもの。そのため、荷物を運ぶとなると、やや取り回しがいいとは言えず、なるべくコンパクトかつスマートに荷物をまとめ上げる必要がある。そのため、品としては魅力的でも価格とスペースのバランスを考えた際に列車で運ぶのに向かない農作物も存在する。

構内を移動する際はとにかく安全に気を配る。ホーム上で列車を待つ際も台車をレールと平行に停める。これは不意の線路上転落を防ぐためだ。列車が到着すると乗客の乗降が落ち着いたのを確認して、速やかに荷物を積み込む。

積載位置は乗務員室前のスペースで、手すりにバンドを結束し、ラチェットを締める。同時に、台車のハンドルにウレタン製のクッションを挟み込んだ。これはハンドルを握り込むとブレーキが解除される構造の台車に対し、乗客がハンドルに触れてもクッションでハンドルを握り込めないようにする安全対策の一つだ。

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