アメリカ軍「アフガン撤退」日本と韓国への意味 アフガン動乱はアジア情勢に影響を与えるか

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だが、「金正恩が今回の件を受けて特に何かをするとは思えない」と、世宗研究所で長年、北朝鮮の専門家として活躍してきた白氏は言う。「彼は最近、国内の経済的な生き残りに完全に集中しており、文政権やバイデン政権が北朝鮮に対して挑発していないのに、挑発行為を行う理由はまったくない」。

「北朝鮮は、朝鮮半島の状況がアフガニスタンの状況と同じではないことをわかっている」と、魏氏も言う。「北朝鮮は今回の件を、アメリカを試す機会とは考えないだろう」。

しかし、朝鮮半島の専門家は事態が悪化する可能性を排除していない。専門家は、アフガニスタン撤退の結果としてではなく、2019年のベトナム・ハノイでの米朝首脳会談の失敗後に行き詰まりを見せている交渉を再開させようとする試みとして、これを見ている。

中国は米軍撤退「チャンス」と捉えている?

中国の役割も大きな謎である。東欧大使の公文書によれば、金日成主席が革命の夢を叶えるため、1975年に中国に支援を求めた際、中国共産党幹部はこれを退けた。当時、党幹部はアメリカと対峙し、国境で燻(くすぶ)っている戦争の火種に火をつけることに興味がなかったのだ。

中国は今、アメリカとの戦略的競争で身動きがとれない状態だ。中国は北朝鮮を失う覚悟ができているのだろうか。

「中国はどこかでアメリカがアフガニスタンで当然の報いを受けたと思っている――アメリカが無能で無謀に見え、それが中国を活気付ける可能性があることも」と、ブルッキングス研究所の学者、ジョナサン・ポラック氏は説明する。一方で「決定的な戦略の変更が行われている今、中国は自らの立ち位置を非常に慎重に考えている」。

こうした中、中国がアフガニスタンの混乱は「中国に新たなチャンスを与える機会と見ている可能性がある」と、2010年に北朝鮮が韓国を砲撃した際、その処理にかかわったアメリカ国務省の元高官は話す。つまり、朝鮮半島で何らかの揉め事が起きた場合、中国が両国を取り持つ仲介人としてかかわる可能性があるというのだ。「(今回の件で)中国は間違いなくそのチャンスを考えている」(元高官)。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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