ところが実際に義務になってみると、たかが娘とレストランへ行くためだけに、グリーンパスを巡って小さな引っかかりができた。今回は最終的には食事に行けたし、行けなかったとしても母と娘だから大した問題にはならない。でもこれが、友人同士の集まりだったらどうだろう。あの人はグリーンパスを持っていないから誘わないとか、あの人はワクチン反対派だから面倒くさいなど、人々が分断されてしまわないだろうか? 学校へ通う思春期の子どもたちならなおさら、パスの有無で差別やいじめが生まれそうで心配だ。
そんな不安や疑問を払拭するように、テレビでは盛んに人々が喜ぶ様子を伝えている。グリーンパス提示義務、マスク着用義務、および観客数は50%に制限されても「前と同じようにサッカーを生で応援できるのはグリーンパスのおかげだ」とうれしそうなイタリア人男性がインタビューに答えていた。
「せめて夏の間はちょっと自由にしたい」
このように大騒ぎを巻き起こしているグリーンパスだが、ワクチンは本当に感染を防いで、重症化、死者を減らす効果があるのだろうか、と8月15日、イタリアの有名ジャーナリスト、マルコ・トラヴァーリオが書いていた(有料記事)。ちょうど1年前のワクチンがまだなかった頃と今では、どれだけ違いがあるだろうか。イタリアの日刊紙「La Repubblica」のデータを見てみた(2021年、2020年)。
●2021年8月17日(検査数 23万8073人)
・新規感染者数 5237人
・死者数 54人(前日は24人)
・重症者数 423人
●2020年8月17日(検査数 3万0666人)
・新規感染者数 320人
・死者数 4人
・重症者数 58人
驚くことに、あまり効果があるようには感じられないどころか、実はワクチン接種が全国民の60%を超えた今年のほうが、感染者数が約10倍と多い。検査数が圧倒的に増えていること、今主勢のデルタ株の感染力がとても強いこと、そして感染者、死者、重症者のほとんどがワクチン接種を済ませていない人であることを差し引いても、グリーンパスがあるから安全、とのんきにしていられないように見える。事実、「夏が終わって寒い気候がやってきたら、また去年と同じようになるんだよ」そんな諦めを抱くイタリア人は多い。だからせめて夏の間はちょっと自由にしたい、経済も少しは回したい。そんな気持ちがイタリアを覆っている。
「命がけでワクチンしたのに、また外出規制なんて冗談じゃないわよ」、パンを買いに入った店の店員さんが言った。まったくそのとおりだと思った。ちなみに観光客もグリーンパスがなければレストランにも美術館にも入れないのは同じなので、これからイタリア旅行を考えている人はご注意を。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら