石破茂「本心は原発ゼロ」なのに表立って言わぬ訳 政界きっての軍事通が語る「原発と核抑止力」

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――広島で被爆した物理学者の沢田昭二さんは「(国際紛争は)武力ではなく、話し合いで解決するべきだ。話し合いでしか解決しない」と言っています(『「安全保障に原発必要」は本当?被爆科学者の答え』参照)。

そうありたいと思います。思っているが、人類の歴史はずっと戦争の歴史だった。ユートピアがすぐ来るか。私は政治家なので、理想をつねに失わないということと、今日ただいま、どうやって戦争のない状態をつくるかの両方を考えていかないといけない。

私が小学6年のときの昭和43(1968)年に、アメリカから原爆のフィルムが公開されたと思う。そのときのことを一生忘れない。これがどんなにむごたらしくて、どんなに悲惨か。ときどきフィルムを見直すことがある。絶対こんなことやっちゃダメだと、よくよくわかっています。

「武力ではなく話し合いで」というのは、そうあるべきだというのはそのとおりだと思います。一方で安全保障をやってきた者は、バランスオブパワー、力が均衡しているときは(戦争が)起こらないというのは経験則としてある。

アメリカが原爆を持てば、ソビエトが持ちました。ソビエトが人工衛星を打ち上げれば、アメリカも打ち上げました。アメリカが原子力潜水艦を持てばソビエトも持ちました。恐怖の均衡とか言われるなかで、大きな戦いは起きなかった。

「何も起こらない」と断言できない

いま、アジア太平洋地域において、中国がものすごい軍拡をやっている。北朝鮮が国民生活を犠牲にしながら軍事力を強化する(なかで)、日本が防衛予算を減らしていくのか。アメリカが世界の警察官をやめたとき、軍事バランスが崩れて何が起こるか。

「何も起こらないだろう」は、「だろう」であって、「だ」という断言ができない。バランスオブパワーを保つために北朝鮮、中国の軍事力をあなどることはできないし、過大評価であってもならない。アメリカの日本防衛はどこまで実効性があるのかをつねに検証しなければならない。だけど戦争というのは相互不信とか、ミス・コミュニケーションで起こることが多い。「こんなはずじゃなかった」というのがほとんどですよ。

防衛庁長官就任のときは、こんなやつを長官にしていいのかと朝日新聞に叩かれた。『週刊朝日』にこんなやつを長官にしていいのかというマンガも書かれた。今や私は軍事オタクの左翼ですから。言っていることは何にも変わらないわけです。

慰安婦も徴用工も、日本の主張が正しいと思っています。だけど、私たちはどれだけ韓国のことを知っているか、北朝鮮の歴史を知っているか、それは自信がない。勉強しているけれども、知らないことだらけ。そういうミス・コミュニケーションとか、相互不信とかで戦(いくさ)が起こるのがほとんどだから、そうならないような努力を一生懸命する。話し合いで解決できる社会を理想として放棄してはいけない。(しかし)いま軍事バランスを保たないと何が起こるかわからない。

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