決済はキャッシュレスから一気にカードレス時代 「デジタルの利便性」の裏に潜むリスクとの対峙

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顔認証による本人確認に近いものとして、中国が試行を進めるデジタル人民元がある。22年2月の冬季オリンピックまでに正式導入をしたいとして国を挙げて推進している。これは管理(統制)が厳しい中国であるからできるわけで、日本を始めとした“いわゆる先進国”では、一部の方々に誤解があるが、デジタル通貨はこのような個人情報の問題から導入は困難であるし、導入の予定はない。あくまでも“前向き”な分析・検討の段階にとどめている。

カードレス社会の利便性とリスク

「カードレス」社会においては、例えば金融取引にとって、取引の“開始”である「本人確認」は非常に大事な意味を持つ。とくに「生体認証」の本人確認は重要な役割を果たすとみられている。実際に導入が開始されている。小職が勤務した銀行でも、オフィスでは一部、約10年前でもすでに生体認証(指紋)が導入されていた。一般企業のオフィスの入館チェックの顔認証も同様である。

金融取引でもATMで指紋認証や静脈認証で本人確認が導入されている。ちなみに、日本人は指紋認証の登録には、警察における指紋登録を思い出すようで、抵抗感があるようである。しかし、世の中の進行は早い。今やスマホの本人確認として普通に生体認証が使われている。このように顔認証などの生体認証に抵抗感がなくなっていくことが、すなわち「カードレス社会」の必要条件である。

しかし顔認証などの生体認証などで金融取引ができる「カードレス社会」もいいことばかりではない。生体認証とはそもそも“変えられない”その人に唯一無二の身体的特徴のことである。

これが何であれ、生体認証が犯罪者に一度盗まれると、大変困る事態になる。顔にしても、指紋にしても変えられないからである。逆に、この生体認証のベースとなるAIシステムの管理こそ厳格に行わなければならない。これは本人確認に限らず、ほかのデジタル化された情報でもいえることである。

次に来る「カードレス社会」では、生体認証に基づく本人確認がその根幹をなすため、クレジットカードをはじめとしたあらゆるカード等を持たなくてよくなる一方で、リスクも生じることになる。そもそも〝デジタル化”とはそういうものであるが、利便性とリスクは表裏一体なのである。

宿輪 純一 帝京大学経済学部教授・博士(経済学)

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しゅくわ じゅんいち / Junichi Shukuwa

帝京大学経済学部教授・博士(経済学)。1963年生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒。富士銀行、三和銀行、三菱東京UFJ銀行を経て、2015年より現職。2003年から兼務で東大大学院、早大、慶大等で非常勤講師。財務省・金融庁・経産省・外務省、全銀協等の委員会参加。主な著書に『通貨経済学入門(第2版)』『アジア金融システムの経済学』(日本経済新聞出版社)、『決済インフラ入門〔2020年版〕』(東洋経済新報社)、『円安vs.円高(新版)』『決済システムのすべて(第3版)』『証券決済システムのすべて(第2版)』『金融が支える日本経済』(共著:東洋経済新報社)などがある。

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