2人と2匹で遊んでいるうちに、智也さんは育美さんにとって「かけがえのない人」になっていく。智也さんは行き当たりばったりのドライブでも楽しめる遊び上手。それが育美さんにとっては新鮮で、年上の自分を立ててくれるところも居心地よかった。とはいえ恋人にはならないまま、「犬友」として4年が過ぎた。
「お互いの家も車で10分ぐらいだったので、私が住んでいたマンションの合いカギを彼に渡していました。私の犬は家の中でおしっこができないので、仕事が遅くなる日が続くと膀胱炎になってしまうのです。私の代わりに彼が夜の散歩をしてくれていました」
40歳になろうとしていた育美さん。いっそのこと智也さんと結婚して一緒に住むことを考えた。しかし、学歴や経済的な安定を重視する父親に反対されて白紙に戻し、それがきっかけとなって智也さんとの関係も気まずくなってしまう。
犬友から結婚相手へ
「3カ月ほどは会わずに過ごしました。そのまま元のようにひきこもると犬が可哀そうなので、行ったことのない公園に連れて行ったりもしましたが、智也さんがいないとつまらないことに気づいたんです」
一方の智也さんは育美さんではなく彼女の犬が心配だった。自分が世話してあげないと病気になってしまうかもしれない。そして2人はよりを戻す。またしても犬が関係をつないでくれたのだ。
「今度は私も真剣に考えました。彼の給料が出ていないことだけではなく、その親兄弟が全員同じ会社で働いていることがとてもリスキーだと思ったからです。何かあったら共倒れで、会社員の私だけでは養えません」
このハードルをどうしたら乗り越えられるのか。幸いなことに自分にはコツコツと貯めて来たお金がある。それを元手にローンも組めばアパートを建てられる。
「一緒にアパートをやらない?というプロポーズをしました。いざというときはお互いの家族が住む場所を作れるし、彼が給料をもらえなくても家賃収入を得ることができます」
智也さんは驚いた。育美さんとは「犬友」のままでいたかったからだ。しかし、父親から「友だちのままでは育美さんが逆にかわいそうだ。お前を好きでいてくれているんだから。結婚しないのであれば彼女のためにもきっぱりと関係を断ちなさい」と諭され、心を決める。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら