「日系エンジン」が中国の新燃費規制で注目の訳 国際基準導入で日系メーカーの好機となるか?

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上述した動力源の省エネ化を推し進めても、2025年目標(4.0L/100km 、NEDCベース)の達成には、各社とも一定比率のEV生産が必要となるからだ。

また、ターボエンジンを搭載する地場ブランドの小型車(排気量1.6L以下)は、中~大型車よりも実燃費と表記燃費の乖離が大きい。

こうした小型車や廉価車生産を得意とする地場自動車メーカーが、構造が複雑で開発コストの高い省エネエンジンに注力することは難しい。そのため、小型EVの生産が、増加することになるだろう。

日系部品メーカーの好機となるか

中国では低燃費を意識する消費者が増加し、メーカー間で燃費競争が繰り広げられている。またEVを選ぶ際に、航続距離に注目する消費者は少なくない。今後、新規格がEVにも適用されると、エアコン使用時も測定対象となることで、カタログに表記される航続距離は短くなる。

また2025年より、WLTCモードから中国独自の自動車走行モードシステムである「CATC基準」の適用へと移行することになる。

実際、中国でリコール情報を提供する「車質網」が集計した2021年1~7月の苦情(品質、アフターサービスなど)のうち、電気自動車(EV)に関する苦情は1380件寄せられており、とくに「カタログ表記より実走行距離が短い」を含む電池・パワートレイン関連の件数が目立つ。

日本では販売されていないホンダのSUV「ブリーズ スポーツハイブリッド」(筆者撮影)

今回の新規格により、中国の地場自動車メーカーに限らず、ターボエンジンを採用する欧米系メーカーもエンジン技術の見直しを迫られる。また、中国で好調な日系HVは、WLTCモードで現行比10%~15%の燃費差が出ると想定される。

一方、日系自動車メーカーは自然吸気エンジンを主流とするため、WLTCモードで燃費の乖離がターボエンジンよりも小さい。2010年以降、ターボエンジンが中国乗用車市場の主流となってきていたが、ここにきて構造がシンプルで低コストの日本メーカー製エンジンが、再び注目されるようになっている。

今後、自動車メーカーは、燃費だけでなく、車載バッテリーの容量拡大、車体の軽量化、安全性や走行性能の向上など、総合的に消費者満足度を高める必要があり、それに伴うコストダウンにも一層、注力する必要がある。

省エネ車分野では、日系部品メーカーが依然として強い競争力を見せているが、2020年に導入した「国6」基準により省エネ関連部品の需要が増加したことから、日系各社は引き続き中国政府の環境対策や規制の変更を注視していくことが必須だ。

湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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