合理化の鬼・半導体産業が直面した不条理世界 グローバル経営は経済安保をどう考えるのか
『ネットニュースではわからない本当の日本経済入門』で、「多くの経済現象は、限られた数の基本原理を知っていれば、より深く理解することができる」として、経済ニュースと関連する経済理論を解説した伊藤元重・学習院大学教授が、グローバル経済の流れを読み解く。
設計はアップル、製造は台湾の専門工場
半導体不足のために新車購入を待たされるというケースが生じている。その根底には、実は極度に進んだ国際分業がある。
今日、半導体不足が生じている理由は複雑だが、原因の一つに米中経済対立がある。2020年にアメリカのトランプ政権がファーウェイへの制裁を強化すると表明すると、ファーウェイはグローバルな生産市場での半導体の確保に走った。
続いて同年、中国の半導体メーカーに対するアメリカの制裁が本格化したため、そこに製造を委託していた欧米半導体メーカーが、委託先を台湾などの他社に変更したことも影響したとされる。
新型コロナの影響としては、感染拡大と一時的な沈静化を通じて自動車の需要が乱高下したことが大きい。さらに2021年初めにアメリカ・テキサス州を大寒波が襲い、停電のため現地の半導体工場が操業停止に追い込まれたこと、3月の日本のルネサスエレクトロニクスの火災も重なった。
大方の想定以上に脆かった半導体のグローバル生産体制は、どうなっているのだろうか。
半導体の世界では、上流のデザインや設計から、下流の製造工程の部分まで、国境を越えた分業が進んでいる。
クアルコムやアップルなどの世界的な有力企業はスマホやパソコンなどに使う半導体の設計を行っている。その設計は製品の性能に直接影響を及ぼすものであり、これらのハイテク企業の競争力を支えている。ただ、実際に半導体を生産する工程は、ファウンドリーと呼ばれる製造専門の会社が担うことが多い。
ファウンドリーの中で特に有名なのは台湾のTSMCで、世界のファウンドリーのシェアの50%以上を占めている。TSMCなしにはアメリカも日本もそして中国も、最先端の半導体が手に入らないという状況になっている。
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