帰国に追い込まれた在韓日本公使“妄言"の真相 韓国メディアのどうしようもない反日体質と対韓外交の難しさ

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今回、相馬公使にとっての不幸を一言でいえば「相手が悪かった」である。JTBCのメディアとしての傾向、体質についてはすでに触れた。

これとは別に、懇談の相手が女性記者だったことが事件につながったと思う。韓国社会は近年、男女差別や性的問題に極めて敏感である。公的人物や有名人のセクハラ問題が、非難や告発事件として毎日のようにメディアを賑わせている。メディアはそのことに鵜の目鷹の目、虎視眈々である。

男女差別や性的問題に極めて敏感な韓国社会

したがって、今の韓国では「女性記者の前でマスターベーションという言葉」は、そこだけを抜き出していえば十分問題になりうる。今回、仮に担当の女性記者はその場でことさら羞恥心を感じず問題視しなかったとしても、帰社した後、周囲にそのことを語れば周りは間違いなく「セクハラじゃないか!」と騒ぐ。とくに相手が日本外交官だったということを聞けば。

日本大使館は報道があった後、7月17日の午前2時(!)過ぎに「相馬妄言事件」について大使名義の公式コメントを発表し「懇談中の発言とはいえ外交官として極めて不適切で大変遺憾であり、厳重に注意した」と頭を下げた。日本国内でも加藤勝信官房長官が記者会見で同様の見解を発表しているが、日本政府としては「コトが大統領がらみ」と「韓国世論への刺激」を考え、外交問題化を避けようと早期鎮火のため素早く頭を下げたというわけだ。

外交的にはこの措置はやむをえなかっただろう。これまでの経験からも、韓国社会はメディア主導(世論)で反日妄言キャンペーンが始まるとブレーキが利かなくなるからだ。しかも問題が「性的な不適切発言」とあっては勝ち目はない。

韓国における近年の日本外交官受難史をひもとけば、発言をめぐっては高野紀元大使(2003~2005年)の「竹島発言」問題が印象深い。日本の島根県が「竹島の日」を制定したことに反発、韓国で反日ムードが高まっていたときだった。

ソウル外信記者クラブの昼食会見で竹島問題を質問された際、「歴史的にも国際法的にも日本の固有の領土」という日本政府の公式見解を述べたところ、これが韓国メディアによって「日本大使がソウルのど真ん中で妄言!」と報じられ、日本大使館に連日、反日デモが押し掛ける騒ぎになった。日本の国を代表する日本大使が、公式の場で問われて日本の国家としての公式見解を語ることが「妄言」として排撃、非難される。

当時、この事件でおじけついた日本大使館は竹島問題での想定問答を作成し、できるだけ具体的には触れず「従来の立場に変わりはない」程度にとどめるようにしたと記憶する。ことなかれ主義で萎縮してしまったのだ。

今回、「マスターベーション」はまずかったとして、だからといって日本外交官が韓国相手の対外情報発信において萎縮したりいじけては元も子もない。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」である。相馬公使は日韓情報戦争で韓国メディアのテロに遭い、"戦死"したようなものである。駐韓日本外交官たちは、途中下車を余儀なくされた相馬公使の“弔い合戦”の気概が求められる。

黒田 勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員、神田外語大学客員教授

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くろだ かつひろ / Katsuhiro Kuroda

1941年生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長兼論説委員を経て現職。1978年韓国延世大学留学。ボーン・上田記念国際記者賞、菊池寛賞および日本記者クラブ賞を受賞。著書に『韓国 反日感情の正体』『隣国への足跡 』『韓国人の研究』『韓(から)めし政治学』『反日vs. 反韓 対立激化の深層』など多数。2021年4月から神田外語大学客員教授。

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