帰国に追い込まれた在韓日本公使“妄言"の真相 韓国メディアのどうしようもない反日体質と対韓外交の難しさ

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伝えられている話を総合すると、相馬公使は懇談の際、韓国の対日外交を「独りよがり」「自己満足的」として不満を述べるにあたって「文大統領はマスターベーションをしている」という比喩を使った。この表現について相馬公使はその場で撤回し、JTBCの報道でも「(相馬公使は)“失礼した”と謝った」となっている。

報道は翌7月16日夕刻の番組だったが、その間、相馬公使には女性記者から問題の発言について確認の電話があった。そこで相馬公使は、懇談が非公開のオフレコだったことや、問題の表現についてはその場で撤回し謝ったことを指摘したうえで、かつ「韓国外交について語ったもので決して文大統領を名指ししたものではない」と釈明したという。

それにもかかわらずJTBCは報道に踏み切った。そのことについてJTBCは報道の際、まずキャスターが「公開懇談会の場ではなかったけれども、発言の内容が常識的ではないと判断し報道を決定しました」と説明した後、担当記者自ら「(相馬公使は)文大統領の歩みを評価する際、口に出せないような表現を使いました。駐在国の首脳に対する性的表現を相手国言論人の前で使うのは常識的でありません」と伝えている。

信義、信頼、マナーなどお構いなし

オフレコの約束を破り、しかもその場で撤回・謝罪をうけながらもそれを無視し、暴露(報道)してしまったのだ。明らかに背信行為である。

JTBCはケーブル系有力テレビチャンネルの1つで、先年、朴槿恵大統領追い落としの暴露報道で名を挙げた。筆者も日ごろ、対韓歴史認識などをめぐって「妄言製造機・極右クロダ記者また妄言!」などと顔写真付きで報道してもらっているが、先ごろ“戦犯企業ミツビシ”叩きの企画番組もやっており反日報道にはことのほか熱心である。

今回も「単独(特ダネ)」と銘打っており、メディアとしての約束、信義、信頼、マナーなどお構いなしに一発当て込んでの暴露報道だった。 

対外的背信行為である暴露報道にJTBC内部でも当然、議論があったに違いない。マナー違反がわかっている担当の女性記者は、報道することに消極的だっただろう。だから報道は翌日にずれ込んでいる。しかしこのところ視聴率低下に悩むJTBC上層部は、「これはいける!」というビジネス判断で暴露に踏み切った――。

以上は筆者の想像だが、同じメディア界の人間としてこれはほぼ間違いだろう。

韓国メディアは日本叩きの反日ネタには何でも飛びつく。オフレコ破りだろうが背信行為だろうが関係ない。JTBCの報道をきっかけに全メディアが「相馬妄言」に飛びつき、日本政府に謝罪要求、相馬を処罰しろ、大統領の日本訪問反対などといつもの反日キャンペーンとなった。

韓国外交省は日本大使を呼びつけて抗議し、次期大統領選に向けて忙しい政界も「日本公使妄言糾弾」に熱を上げるなど、外交的大問題に仕立て上げてしまった。その結果、五輪訪日計画をめぐる事前の対日交渉がうまくいかず、訪日が難しくなっていた文大統領にとっては、「訪日中止」の責任を日本のせいにするいい口実となった。

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