中国人留学生は「知的財産の収集人」の危険な実態 日本はいま「どこ」を規制強化すべきなのか

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海外から帰ってくるという意味の「海帰」と発音が同じであることから、中国では外国に一時的に出て行く留学生を「海亀〈ハイグイ〉」と呼ぶ。留学生らは当初は技術窃取の意図を持っていなくても、中国では国家情報法により国の情報活動への協力が義務づけられており、中国当局に要請されれば拒否できないとの見方が強い。

この問題に詳しい日本政府の元高官は、「中国人留学生は、帰国時には中国大使館の許可が必要だ。その過程で情報を吸い上げられている」と話す。

民間の留学生を活用するだけではない。中国は、中国軍などに所属する科学者を留学生として送り込み、機微な技術を獲得させる手法も用いている。軍とのつながりを隠して留学するケースもあるという。

2019年11月に豪戦略政策研究所が出した報告書によると、2017年までの10年間で、中国軍に所属する2500人以上の科学者が日本を含む海外に派遣された可能性があるという。

北京航空航天大、北京理工大、ハルビン工業大──。

報告書は、中国の少なくとも60の大学が軍事や防衛と密接なつながりがあると分析し、次のように指摘する。

「中国の大学との連携が、中国軍や治安当局によって利用されるリスクが高まっている。多額の公的資金を受け取っている各国の大学は、人権や安全保障を害することを回避する義務を負っている」

ビザ発給を厳格化したトランプ政権

こうした留学生による「学術スパイ」を防ごうと、トランプ政権は2018年6月、中国人留学生らの査証(ビザ)発給を厳格化した。情報機関が留学生の経歴や個人情報を調べ上げ、発給を拒否するケースが増えている。中国人向けの発給はこの結果、45%減少したという。

それでも、経歴を偽って留学したり、留学を試みたりするケースが相次いでいる。ボストン大学の元留学生は、中国軍に所属する身分を隠して留学し、情報収集などの工作活動に従事したとして2020年1月に起訴された。スタンフォード大の客員研究員も、中国軍所属の身分を隠して学術交流訪問のビザを申請した。

アメリカ政府は2020年7月22日、在ヒューストン中国総領事館の閉鎖を命じた。ポンペオ国務長官は23日に行った演説で、「中国の学生や会社員は、ただの学生や会社員ではない。その多くが知的財産を盗み、国に持ち帰るために来ている。ヒューストンの中国総領事館閉鎖を命じたのは、知的財産窃取とスパイの拠点だからだ」と断じた。同総領事館内では24日午後が退去期限とされる中、文書を焼却する様子が確認された。

中国人留学生がもたらすリスクは、当然ながら日本も例外ではない。

「研究者Yが希望する研究テーマが輸出管理担当部署で把握している機微研究分野に合致した」

「X教員による外国人研究者Yの受け入れについて、輸出管理上の手続きは行っていたが、審査が未完了のまま、教授会で受け入れ決定が行われた。その後、研究テーマが機微な技術分野に該当し得ること及び研究者Yの経歴に(大量破壊兵器に関連している恐れがある)外国ユーザーリスト掲載機関での研究実績があることが判明した」

いずれも、日本の大学の現場で実際に起きた事例だ。ヒヤリとしたり、ハッとしたりしたケースを列挙した経済産業省の「ヒヤリハット事例集」に掲載されている。

オーストラリア戦略政策研究所は、山陰地方と北関東の3つの大学が、中国共産党のスパイ活動を支援しているとされる「国際関係学院」から中国人留学生を受け入れたと指摘している。

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