中国人留学生は「知的財産の収集人」の危険な実態 日本はいま「どこ」を規制強化すべきなのか

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東北大では2009年にイラン人留学生が使用済み核燃料の再処理に関する研究をしていた問題が発覚し、これを契機に2010年3月、学内に輸出管理の一元的な対応を行う「安全保障輸出管理委員会」を設けた。教員が運営にあたる中、事務職員3人が常駐し、技術流出に目を光らせている。

委員長を長く務めた佐々木孝彦・東北大金属材料研究所副所長は、「個々の教員の判断に任せるのではなく、共同研究や実験データの持ち出しを組織として漏れなくチェックできるようになった」と意義を語る。

しかし、こうした先進的な取り組みを行う大学ばかりではない。文部科学省によると、2019年2月時点で留学生の受け入れなどを管理する担当部署を設けている大学は、国立では94%に上る一方、公立・私立では45%にとどまっていた。2020年には公立・私立も55%と改善傾向が見られるが、依然として全体では67%でしかない。

この問題に詳しい国立大教授によると、管理担当部署があっても、受け入れ担当の教授が「この留学生にはそんな意図はない」と主張した場合、「あなたが責任を持ってくださいね」と言って留学を認めてしまうケースが少なくないという。

大学が調査をしている場合でも、虚偽の申請をチェックするのは困難だとの声が出ている。それに加えて日本政府には、アメリカのように中国人留学生一人一人のバックグラウンドを審査する能力はない。アメリカ側の調査も日本と情報共有されていない。

日本留学のあと「国防七校」へ戻った例

中国人留学生をめぐっては、日本で科研費を受領して研究をした後、中国の国防七校に戻り、軍事研究に関与している可能性があるケースも、日本政府は3例を確認している。

1人目は、2012~2015年にかけて九州の大学に留学し、ハルビン工程大船舶工程学院に戻った中国人研究者だ。日本滞在中、浮体式洋上風力発電システムに関する科研費を受領した研究に関与し、研究成果として指導教授と連名で論文を発表していた。中国に帰国後、国防技術の発展に寄与した研究者に授与される「国防科技工業科学技術進歩一等賞」を受賞しているという。

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2人目は、ハルビン工業大教授だ。同大は、外国ユーザーリストに掲載されている。教授は2001~2004年にかけて、関西と九州の2つの大学で金属材料などに関する研究活動を行った。帰国後、中国の軍需企業である「中国航発ハルビン軸受有限公司」の技術主席顧問専門家に就任した。

3人目は南京航空航天大教授で、1991年度から2007年度にかけて東北地方の大学で研究に従事した。政府によると、この間、17件、総額約1億3000万円の科研費を受領した。加えて、文科省、経産省などから3億円以上の研究助成金を受けていたとみられる。

中国に戻ってからは、国防科工委イノベーションチームに選ばれた。軍事研究の装備研究プロジェクトの助成も得ていた。

留学生を通じた、日本の安全保障を害しかねない技術流出は、現在進行形で起きていると考えておかなければならないのではないか。

読売新聞取材班
よみうりしんぶんしゅざいはん

読売新聞政治部による年間企画「安保60年」(2020年)をベースに、社会部、国際部記者による取材を加えて再構成した。軍事転用が可能な新興・重要技術と、サプライチェーン(供給網)をめぐる中国の脅威、日米政府の動きを追い続ける。著書に『中国「見えない侵略」を可視化する』(新潮新書)。

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