オックスフォード大学のフライバーグ教授らの研究によれば、ロンドンオリンピック(2012年)と比べ、東京オリンピック(1964年)は53分の1の費用、商業主義の始まりとされるロサンゼルスオリンピック(1984年)でさえ20分の1の費用で開催可能だったのだ(※9) 。山口香氏の次の指摘は経済学的観点からみても、正鵠を射ている。
「オリンピックはマイナースポーツのためにあると、私は思っている。正直に言えば、サッカー、テニス、ゴルフにオリンピックは必須ではない。テニスなら全仏オープンやウィンブルドンがあり、そこで優勝するほうがよっぽど価値があるし、サッカーだってワールドカップがある。 でも、馬術やウエイトリフティングなど普段はそれほど注目されないスポーツにとって、オリンピックは多くの人に見てもらい、すべての選手がスターになれる4年に一度のチャンスになる」(※10)
今後のオリンピックの転換点に
オリンピックはアマチュアリズムへ回帰し、マイナースポーツのための大会へと変貌することが望ましい。それは、多種多様な人が参加して作り上げる相互理解のための祝祭である。
東京オリンピックは会期中に、東京で過去最高の一日5,000人を超える感染者を記録し感染爆発状態の状態に陥った。猛暑の中での競技で、体調を崩す選手や不満を訴える選手が続出した。「安心、安全」だったはずの大会は選手や一般人を危険にさらしている。しかし選手の要求を受け入れる形で、テニスの試合開始時間が変更された。
今後の大会では、アメリカのテレビ放送時間の関係で困難とされたオリンピックの日程なども改善されるかもしれない。一見、失敗したかに見える東京オリンピックは、今後のオリンピックの転換点になるかもしれない。そうなれば、東京オリンピックは歴史に名を刻み付ける意義ある大会となるだろう。
(※1)資料:Ipsos Survey。28カ国の19,510人に対し、5月21から6月4日にかけて調査。
(※2)Miyoshi, Koyo., Sasaki, Masaru. (2016)"The Long-Term Impact of the Nagano Winter Olympic Games on Economic and Labor Outcomes" Asian Economic Policy Review, 11:43-65.
(※3)Flyvbjerg, Bent, Alexander Budzier, and Daniel Lunn, 2020, "Regression to the Tail: Why the Olympics Blow
Up," Environment and Planning A: Economy and Space, published online September 15.
(※4)「「障がい者イジメ」小山田圭吾“一派”を抜擢したのは“渡辺直美”侮辱男だった」『週刊文春』2021年7月29日号。
(※5)「日本側から五輪中止を求めたら 法の専門家「賠償金ある」」『毎日新聞』2021年6月11日。
(※6)「NHKラジオ第一『マイあさ!』 インタビュー、2020年6月6日。
(※7)『報知新聞』2021年6月27日。
(※8)「NHKラジオ第一『マイあさ!』 インタビュー、2020年7月24日。
(※9)Flyvbjerg, Bent, Alexander Budzier, and Daniel Lunn, 2020, "Regression to the Tail: Why the Olympics Blow Up," Environment and Planning A: Economy and Space, published online September 15.
(※10)山口香JOC理事「今回の五輪は危険でアンフェア(不公平)なものになる」『Newsseek』2021年6月8日。
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やまむら えいじ / Eiji Yamamura
1968年北海道生まれ。1995年早稲田大学社会科学部卒業、1999年早稲田大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2002年東京都立大学大学院社会科学研究科経済学専攻単位取得退学、2003年西南学院大学経済学部専任講師、助教授、准教授などを経て、2011年より西南学院大学経済学部教授。博士(経済学)。専門は行動経済学、経済発展論。
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