「感動」の裏で忘れられた「コンパクト」東京五輪 5000人対象の調査からわかった日本人の期待
東京オリンピックには「東日本大震災からの復興」を発信するという趣旨があった。さらに女性の参画を促し、多様な視点を取り入れる方針であった。環境問題も持続可能な社会実現の重要性が高まる現在、非常に重要なトピックである。いずれも、新時代のオリンピックの方向性と密接に関連する質問である。これらの質問についても、6割以上の人が賛成している。
筆者は「災害対策」「女性参画」「環境問題」への見解が、どの程度「金のかからない」オリンピックへの支持度合いに関連するかを分析した。分析結果から次のことが明らかになった。
災害対策強化を求める程度が1ポイント上昇(5ポイント中)すると、オリンピック支出縮小への支持程度が約1.5ポイント上昇(5ポイント中)する。また「女性参画」や「環境問題」を重視する傾向がある人ほど、オリンピック支出縮小を支持する傾向がみられる。以上のことから、当初の東京オリンピックの理念は、民意に沿うものであったといえる。
膨らむ費用と理念の変質
しかし、時間の経過とともに明らかになったのは、競技場の新設等にかかる費用の膨張である。これは、東京オリンピックに限った現象ではない。1960年以降のオリンピック大会の総費用は、平均して予定額の2.7倍となる(※3)。費用がいくら高くても企業と違って政府は倒産しない。費用を抑える動機がないから支出は自然と増えていく。
費用ばかりでなく、理念の変質もあった。新型コロナによって、「東日本大震災からの復興」の看板は「パンデミックに人類が打ち勝った証し」にかけ替えられた。その看板も下ろさざるをえない状況に至ったことは周知のとおりである。
ジェンダー平等ランキングで、対象156カ国中、日本は120位(世界経済フォーラム)に甘んじている。東京オリンピックで「女性参画」をアピールすることで、汚名を返上することができたかもしれない。このように夢想するとき、森喜朗氏が思わず発してしまった言葉が蘇る。「女性理事を選ぶってのは、文科省がうるさく言うんです。だけど、女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」。
式典の責任者であった「電通」出身の佐々木宏氏が女性タレントの容姿を侮辱する演出案を提出したことにより辞任に追い込まれた。開会式の作曲を担当した小山田氏が学生時代に障がい者に犯罪的な「いじめ」をしていたことが問題化した。障がい者スポーツの祭典「パラリンピック」は一体化して開催される。最終的に開会式の4日前に小山田氏の辞任と、担当した開会式楽曲の冒頭4分間を使用しないことになった。
開会式の制作チームの小林賢太郎氏は、芸人時代に「ホロコースト」をコントで扱ったことが問題視され解任された。理念に反する人物の起用を問題視しなかった組織委員会も、謝罪する事態に至った。一連の騒動は、国内のみならず海外メディアからも批判された。
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