日本は米国や台湾からコロナ対策を学んでいない 日本経済が「コロナ禍前」に戻るには何が必要か

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つまり、コロナ禍後の日本経済のパフォーマンスは、欧州各国や香港を上回っているが、台湾、韓国、アメリカ、シンガポールよりも劣っている。安倍晋三政権以降の「新型コロナ下での経済政策の出来」は、他国と比べれば「平均程度」と言える。ただ、日本においては、他国が私権を法的に制限する形で繰り出した政策対応はほとんど行われず、「要請ベース」での対応にほぼ限られており、そうした中では相応に善戦したという評価も可能だろう。

台湾などから学び、即実行する必要性

とは言っても、強権的な対応以外でも、他国の対応に見習うべき点は多いだろう。まず「水際対策の強化」や「ハイテク技術をインフラに取り込んだ感染予防策」が、仮に台湾と同様に実現していれば、同じ島国である日本は感染症に強い優位性を保てた可能性はかなり高い。ところが、台湾に学んで日本が政策を強化しているという話は、筆者はほとんど聞いたことがない。

さらに、日本では都市部を中心に局所的に医療資源が不足する問題が、2021年前半の経済成長を抑制した。公的インフラである医療資源を新型感染症に対応させることができなかった。他の先進国ではほぼ対応できておりかつ十分想定されただろう、現状起きている感染者や入院患者の増加によって、「医療逼迫」とされる現象が起きている。

どの程度深刻な「医療逼迫」が起きているのか、これを正しく判断する充分な知見を筆者は持ち合わせていないが、発生から1年半以上が経過している現状で、局所的な医療資源の制約が経済全体の大きな制約になっている国は、筆者が知る限り日本だけではないか。

例えば、地域間で医療資源の相互利用を進めるなど、余裕がある病床や医療人材を公的インフラとして機能させるなどの対応余地は大きいはずだ。そして、民間の医療資源を新型コロナ対応に向けるインセンティブとなると期待される、医療機関などへの財政支援が依然として十分行き渡っていないことも大きな問題だろう。財政政策については、2020年12月13日当コラムの「なぜ「数十兆円」』も使って景気は悪いままなのか」などで、予算措置は大きいが必要な対応に十分執行されていない問題、を指摘してきた。

もちろん飲食店への営業規制の協力金支給は、7月から前払いで実現するなどやや前向きな動きもある。だが、2020年半ばの10万円の定額給付金の支給が遅れたことと同様に、迅速かつ必要不可欠な財政政策の執行には依然問題が大きい。経済基盤を保つための政策対応が、迅速な現金給付策を複数回行ったアメリカのように実現していないことが、日本の経済パフォーマンスを低下させた一因だろう。

菅政権がワクチン接種に注力していることは、現在行うべき対応としては妥当だろう。だがそれ以外にも、他国対比で劣っており、また学ぶべき教訓は多いと考えるが、今後しっかり対応していくのだろうか?

 

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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