日本人が知らない「1000円カット」の真の魅力 最大のセールスポイントは「安さ」ではない

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では、新聞社のウリとは一体なんなのか。あるとき、作家のエージェント会社・コルクの佐渡島庸平さんが、ラジオでしゃべっているのを聴き、納得がいきました。

新聞社のウリとは、夜中の2時までかけて書いた記事原稿が、ほんの数時間で新聞という印刷物になって、全国の家々の玄関口までストンストンと届く、スーパーな印刷&デリバリーシステムなのです。しかし、プライドがジャマすることもあり、きっと彼らは、このウリを認めることはないでしょう。

1000円カットの真の魅力とは

いまや主要駅の近くやオフィス街の端に、必ず店舗を見つけることのできる1000円カットの理髪店チェーン。「1000円」とついているくらいですから、そのウリは低価格だと思いますよね。では、本当に安売りビジネスなのか、ふつうの理髪店と比較してみましょう。

ふつうの理髪店は、1時間あれば一人の髪をカットして、4000〜5000円の料金をいただくビジネスです。これに対し、1000円カットでは一人10分ですから、1時間あればフル回転の6人はムリでも、5人くらいの髪を切って5000円をいただけます。どちらも、同じ程度の売上です。

しかし、1000円カットのお店では、シャンプーやヒゲ剃り、毛染めなどはしませんし、マッサージや耳かきのようなサービスも一切なし。ですから、出店の際はオフィスのようなハコさえあれば十分で、設備投資も少なくてすみます。それを考えれば、むしろ1000円カットのほうが、儲けを出せるビジネスだと言っていいでしょう。

つまり、1000円カットは、安売りビジネスなどではないのです。

では1000円カットのウリはなんなのでしょうか? たとえば、忙しいビジネスマンが、駅近くにある1000円カットのチェーン店前を通りかかり、「最近、髪を切っていないからそろそろ切りたいんだよな……」と考え、店内を覗くと、お客さんが3人待っています。

「あ、こりゃ時間がかかるな。今日はやめておこう」

数日後、また店舗の近くに来たこのビジネスマンが、店頭のランプを見て待ち時間なしだとわかりました。覗いてみると、今度は一人も待っていません。

「おっ、すぐに切ってもらえる!」

こうして10分後には、また仕事に戻ることができました。髪をカットできるのはもちろん、待ち時間も切る時間もカットできたのです。そう、時短ビジネスであることこそが、1000円カットチェーンの最強のウリなのです。

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